ジャガイモ品種「アトランチック」(ATLANTIC)

(1)来 歴
本品種は、アメリカ合衆国メリーランド州ベルツビルにある農商務省の研究所(USD A Plant Genetics and Germplasm Institute)において ウェッブR. E.Webbらが育成したものです。
 1969年、耐病、多収、加工品質に優れた品種の育成を目標に、多収で、肌が良く、そうか病及びジャガイモシストセンチュウに抵抗性の「Wauseon」を母とし、でん粉価が高く、ポテトチップの品質の優れた「Lenape」を父として交配し、以後選抜を加え、1976 年「Atlantic」の名で1976年に公開したものです。
 これをカルビーポテト株式会社が許しを得て増殖し、北海道における適応性などの試験費用を負担してきた結果、平成4年北海道の奨励品種にすることができたものです。
 「アトランチック」という名前は、カルビーポテト株式会社がつけた呼称で、「アトランティク」と書くのは間違いです。「C2」の名前で扱われることが多く、また目の浅いこの品種を「ハコダテポテト」の名で売っている例もあります。中国でも広く栽培されています。
(2)地上部特性
 茎長は、「トヨシロ」よりやや短く、50cm程度です。草型は直立です。
 萌芽期は、「農林1号」より遅れ、「トヨシロ」並です。開花期は両品種に比べ少し早いものです。
 熟期は中生で、「トヨシロ」より10日程度遅くなります。
 茎は緑色で、その一部が淡赤紫色を帯びています。小葉は大きく、幅がやや広い。
 花色は、ごく薄い淡青紫(うすい藤色)であり、花は大きく、花数はやや多いものです。自然結果は見られません。
Xモザイクウイルスに免疫。Yウイルスを汁液接種した例では、エソ反応が強く現れますので、罹病株の判定は容易です。葉巻病の発生は「男爵薯」並にやや少ないようです。
(3)地下部特性
 塊茎の形は、「トヨシロ」より丸い球で、皮色は淡褐色、表皮はややざらざらしています。目の数は少なく、深さは浅く、外見は良いほうです。肉色は淡黄です。
 塊茎は大きく、粒揃いが良いのが特長です。塊茎着生はやや疎ですが、ストウロンの離れは良いほうです。
 上いも収量は「トヨシロ」程度ですが、株当り上いも数がやや少なく、上いも平均一個重では勝ってます。中いも以上収量はやや勝り、澱粉価は1%ほど高くなります。
 施肥量及び栽植密度に対する反応は、「トヨシロ」並で、疎植にしますと大粒化し、上いも収量が低下します。
北海道産の秋のチップカラーは、「トヨシロ」並ですが、長く低温貯蔵した後リコンデショニングしますとカラーの戻りが良く、ポテトチップ用に適しています。
肉質は粉質です。煮くずれは「トヨシロ」並で、「ホッカイコガネ」より多い。水後黒変は僅かです。剥皮褐変(酵素褐変)は「男爵薯」より少ないが、「ホッカイコガネ」より多く、少発生します。
病抵抗性遺伝子R1を保有していますが、茎葉の罹病度は「トヨシロ」並ないしそれ以上で推移します。疫病菌による塊茎腐敗の発生は、「男爵薯」比べ少なく、「トヨシロ」、「ラシット・バーバンク」程度の中です。
 ジャガイモシストセンチュウ(ゴールデン・ネマトーダ)の寄生型Ro 1(race A)に抵抗性で、抵抗性遺伝子H1を持っています。本線虫の発生畑では、「男爵薯」などの感受性品種と同様にジャガイモシストセンチュウの幼虫が根に浸入するため減収は免れませんが、本品種の根ではシストを形成することができないため、土壌中の線虫密度が低下します。
 そうか病には、高密度圃場では「トヨシロ」程度罹病し、抵抗性は認められませんが、網走管内一般圃場での罹病は少ないようです。
 中心空洞はほとんど認められませんが、褐色心腐が発生しやすい。これが本品種最大の欠点となっており、7月に入ってから発生してきます。また、大いもで発生が多くなります。
(4)栽培上の注意
 ポテトチップスとして現在栽培の多い「トヨシロ」に比べますと、中いも以上収量、一個重、いもの形で勝っているほか、加工の際の製品歩留りや油の吸収率に影響の大きいでん粉価(乾物率)、長期低温貯蔵後のポテトチップ加工適性、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性などでも勝っているものです。粉状そうか病にもややかかり難い。
 褐色心腐が発生しやすいため、乾燥地を避け、また、栽培に当たっては、窒素の多用や疎植を避けることが必要です。
比重が高いためも加わり、打撲傷や割れを生じやすいので取り扱いに注意が必要です。また、比重の上がる前に収穫することもできます。
 褐色心腐の発生などを考慮して、本品種の普及対象地域は、北海道東部、道央北部、道北、及びこれに準ずる地帯となっています。

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左:「アトランチック」のうすい藤色の花(カルビーポテト(株)提供)。 右:「アトランチック」の塊茎
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