ポテトエッセイ第90話

ヨーロッパで人気のおばさん「ビンチェ」

***日本の『男爵薯』、アメリカなら『ラセット・バーバンク』に相当。19世紀の品種***

 オランダで古く育成された『ビンチェ』は、わが国の『男爵薯』やアメリカの『ラシッシト・バーバンクRUSSET BURBANK』のように、まだまだ現役で活躍ししています。 そのため、興味ある逸話がたくさん生まれています。
 この品種は、オランダの小学校の先生であるK.ド・フリース(K. L. de Vries)が1898年から改良を手がけていた中のひとつです。スアメーア(SUAMEER)の小さなフリーズランドという村の学校の庭に芋を植えることはもちろん、官舎の窓の近くに鉢や箱を置いて実生苗を育てたりしつつ、彼の亡くなる6年前の1923年まで品種改良を続け、約125もの品種を育てました。
 品種ができる度に、新たに名前をつける必要があります。知っている偉い役人、惑星、神、政治家達から始まり、彼自身の9人の子供、60人の身内などからつぎつぎとつけていきました。ついに、3学年にいたカワイ子ちゃん『ビンチェBintje』の名前も使うことにしました。この品種はMunstersen x Fransenの実生の中から選抜し1904年に品種としたもので、1910年から一般に売り始めましたが、ウトレヒト(UTRECHT)の農学校のある先生がその豊産性に関心を示し、何年か栽培をつづけました。しかし、名前を忘れたため『RIJKMAKER』(Richmaker富つくり)と呼んで周りの人にも配りました。当初蒸かしても粉のふき方が足りなかったので、あまり人気がでなく、ほとんど豚の餌にされる程度でしたが、第一次大戦(1914〜)の質より量の時代にあい1918年にはオランダ各地につくられるようになりました。しかし、戦が終わり、より粉質のものを求めるようになったので、オランダでのこの品種の作付けは減少していきました。
 そのうち、パリーで、この品種から品質のよいフレンチフライができることが発見され、フランスやベルギーに急速に普及し、いろいろな別名が生まれました。種いもなどはオランダより供給されましたので、故郷オランダでも見直され、日本の『男爵薯』のようにつくられるようになってしまいました。
 オランダでは長い間輸出用として栽培していましたが、1930年以降には主婦達が関心をもつようになり、1938年のアムステルダム中央市場で品質で2位と評価され、外の都市にも波及していきました。第二次大戦後も、その塊茎の外観がよく、形や色もよく、目も浅いため、引き続き人気が上がっていきました。剥皮褐変・二次生長はなく、肉色は淡い黄色。目が浅いので皮が剥きやすく、煮くずれ並でスープ、マッシュ、フリット(フレンチフライ)などに使いやすかった。オランダでは圧倒的人気があり、フランス、ベルギー、スウェーデン、チェコスロバキアなどでも栽培され、スエーデンでは、これから突然変異した『Jatte-bintje』を見つけたりしています。白い花をつけます。
 わが国で栽培してみますと、『メークイン』より遅く、収量が上がらず、小さいので、国産品種に負けます。Aウイルスには免疫、XやYウイルスには罹り、乾腐病には罹ります。古い品種なので、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性もない。風土の違うアメリカでも、晩生で、小さい芋がたくさんつくなど、適応しません。また、隣国ドイツでも、これが癌腫病に罹りやすく、疫病にも弱いため、あまりつくられません。『ビンチェ』はオバタリアンで、面の皮が厚いせいか、収穫・取扱時の皮むけなどの傷も少なく、取扱いが楽なことも長続きの秘密でしょうか。

花 白で、数は少ない。果実は稀にしかつきません。
表  外国品種「Bintje」、「Russet Burbank」の試験成績
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・ 品 種 名 ・茎 長・枯凋期・上いも重・ 比 ・いも数・澱粉価・一個重・
・ ・(cm)・(月日)・ (kg/・)・ (%) ・ (個)・ (%)・ (g)・
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・男 爵 薯 ・ 59 ・ 9. 7 ・ 2,613 ・ 62 ・ 7.2 ・ 13.6 ・ 93 ・
・R. Burbank ・ 67 ・ 9.15 ・ 2,585 ・ 62 ・ 7.3 ・ 14.0 ・ 88 ・
・Bintje ・ 65 ・ 9.22 ・ 3,575 ・ 85 ・ 11.4 ・ 14.6 ・ 81 ・
・紅  丸 ・ 74 ・10上旬 ・ 4,195 ・ 100 ・ 9.0 ・ 16.6 ・ 118 ・
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注)道立根釧農試品種保存より作成。昭和53年〜昭和56年の平均。


註1.育成者の氏名について、次のふたつの記述があります。どちらが正しいか、わかりません。
1.Kornelis Lieuwes de Vries
2.Klass  Lieuwes de Vries
註2.東京都渋谷区にある「POMMEKE(ポムケ)外苑前」というフレンチフライ専門店に行けば、ベルギー産「ビンチェ」を使った外サクサク、中ホクホクのものが食べられます。自家製ディップやベルギービールなどもあります。
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