1. 大脱走
 スティーブ・マックイーン主演、チャールズ・ブロンソン、ジェームズ・コバーンの出演する有名なアメリカ映画(1963年、ジョン・スタージェス監督)です。
 第二次世界大戦のおり、ナチス・ドイツ軍が連合軍の脱走歴のある空軍将校ばかりを集めて新しく第三捕虜収容所をスイスの近くにつくりました。ここに入れられたのは、札付きの将兵たちのこと、厳重な監視にもかかわらず、トムと名づけた地下トンネルなど、あれこれと脱走の秘策が練られました。最後に驚くなかれ250名が一度に抜け出すという計画を進めていきます。
 脱走計画が仕上げに近ずいたとき、スティーブ・マックイーンが大量のジャガイモを手にいれてきます。何のためかといぶかる兵士達を前に、彼はジャガイモの皮を剥き、あるものをつくっていきます。
 ついに、7月4日の朝がきます。星条旗を掲げ、兵士達をたたき起こし、アメリカ独立記念日を祝おうとします。ジャガイモでつくっていたのは、密造(当たり前の本物)蒸留酒だったのです。兵士たちはしばらくぶりにアルコールにありつき、喜び合います。しかしこの日トムがばれてしまいます。これで屈する彼らではない。その後の脱走計画の実行結果は・・・これから見る人のため、書かずにおきましょう。
これによく似たジャガイモ密造酒は、アイルランドの田舎にあるそうです。その名は、ポチーン。ポチーンと言う呼び名はこの酒をつくる時に使う容器に由来する。日本で言えばドブロクに似た感じがし、その響きはパチンコにも通ずる庶民的なもの。
 一定面積からとれる作物から蒸留酒をつくるなら、ジャガイモが一番と提案したのがスイーデンの王立科学アカデミー(1747年)であり、これを企業ベースで製造したのはドイツのほうが早く、19世紀半ばからでした。わが国におけるジャガイモを主原料としたアルコール製造は、明治中期から行われています。
 焼酎乙類の試験醸造は昭和51年秋北海道東部の清里町で開始されました。この町のジャガイモは、そのほとんどが澱粉原料になってしまっていたが、少しでも付加価値を高めようとの作戦で誕生。幸いその後焼酎ブームが到来、一流といわれる料理屋でも焼酎を飲む人たちが増えました。
 このブームは、戦後バラック建て飲み屋でコップを握った焼け跡派が火付け役とも、ヤングだとも言われていますが、値段が安い割に満足感があること、悪酔いしないこと、そのまま飲まずに、お湯、番茶、そば湯、ライムジュースで割るなどマイペースでつき合えるのがいい。
 ノルウェー、スエーデン、デンマークで人気のある「アクアビット」と言う大衆酒は、ジャガイモが原料で、無色のスピリットです。

2. 真紅の海賊
 一八世紀のカリブ海を舞台にした映画。ランカスターの演ずるバロー船長がジャガイモのビタミンCの力を教えたもの。
 船上の彼らのすべてが壊血病にかかって漂流していると見せかけて、その船をひろい港まで引いていこうと寄ってきた船に襲いかかるシーンがありました。
 ジャガイモが積み込み食糧として活用される以前は、無敵の海賊でもビタミンCの欠乏には勝つことができなかった。そんな自らの体験から、この映画のような罠(わな)を考えついたのでしょうか。
 かって、マゼラン海峡を通り、めざす太平洋にでたときには乗組員の3分の1が壊血病で死亡していたという記録も残っているほど。このため、船乗りたちは、長い航海中に果物を食べ、緑茶を飲んで、目に見えない命とりと戦わなければならなりませんでした。  イギリスからアメリカに新天地を求めて初めて移住に成功した清教徒たちが、なんとか最初り冬を越せたのは、七面鳥の蛋白質とビタミンCの多いクランベリー(コケモモに近く、赤い実がなるもの)があったからだ、とも言われています。
 わが国でも次のような例がありました。
 天明五年に幕府の命令によってサハリン(樺太)の調査に行った庵厚弥六を隊長とした11名が北海道の北の宗谷で越冬したことがありました。この宗谷での越年は役人としては初めてのものであり、二月から三月の雪の多い厳寒期に半分近い5名が死亡してしまいました。宿の記録には、『霧気にあてられた』とあったそうですが、これは当時の水ばれ病、つまり脚気と壊血病のビタミン欠乏合併症のことでした。キツと呼ばれる木製防寒シュラフザックとも言うべき箱にもぐり寒さと戦った彼らも、野菜不足には勝てなかったようです。また、探検家の間宮林蔵はダイダイの汁でビタミンCの補給をしていたと言う話もあります。
 なお、ジャガイモ中のビタミンCは、生で100gの中に15ないし40mgほど入っています。

3. さらばバルデス
 1973年、米・仏・伊合同作品。1880年代アメリカはニュー・メキシコ州の話。荒野の一軒家に飼われていた混血馬に乗っているルイーズ(ジル・アイアクンド)に向かってチノ・バルデス(チャールス・ブロンソン)が投げた言葉、
 『ジャガイモをつめた袋でもないだろう』
 これは、乗馬がサマになっていないことを言っています。つまり、両足の膝で馬の腹をしっかり締めてもいないし、両足に体重をかけてもいないのを見て、ブロンソンが馬鹿にした。
 ジャガイモからの連想は、どこの国でもよくありません。
 ヘミングウェイの短編『キリマンジャロの雪』でも、
 「・・・・ふと立ち寄ったカフェでは、あのアメリカの詩人が、前にコーヒーの皿を積み上げ、ジャガイモみたいな顔に、まぬけな表情をうかべて・・・・」
 と言うのがあり、北杜夫の『童女』という題のショートショートの中にも、
 「少女は村では赤ズキンと呼ばれていた。ジャガイモに似た顔立ちの伝わるこの村では、近来こんな可愛らしい子が生まれたことがない。」とありました。
 阿刀田 高のある文にも、
 「公園のベンチはもちろん、電車の中や喫茶店などでベタベタしている2人連れをよく見ると、女は水準以下の御面相。男は芋でも飲み込んだような馬鹿づら。・・・日本の抱擁シーンはまだ揺らん期で、やがて美しく変貌する日が来るだろう」
 とありました。この芋は何芋か知らないけれど、英語からも拾ってみますと、
ポテト・ノウズ   魅力的でない鼻のこと。 
スモール・ポテト  取るに足りない、つまらぬもの。つまらぬ人 。
ミート・アンド・ポテト・マン  肉の取り合わせにはジャガイモしかないと思っているような、単純で面白味の欠ける、真面目くさった人をいう。
 わが国でもこんな使い方が耳にはいった。
A 『どう、この服 』
B 『イモがあったら掘らせたいネ』
 センスがない、時代遅れ、田舎っぽいこと、を言っています。
 こんなジャガイモであるが、ふるさとの香りが豊で、内に秘そめたのがあり、個性的で味のあるものに使うこともある。戦中派はジャガイモから「代用食」、「戦争」(戦中、戦後)、「開拓」などを連想し、若くなると、「土」、「素朴」、「故郷」、「美容食」を連想する人が多くなります。
 6月13日の誕生花はジャガイモ。そしてその意味は慈悲(善行)です。
 この日生まれた方は、失礼だけれど、美男美女ではないかも知れない。しかし、おそらく、いやきっと、個性的でしょう。心は二枚目で、優しく、底の深い人に違いありません。

4. 旅 情
 1955年、デビット・リーンの脚本、監督のイギリス映画。アメリカのいわゆるオールドミスジェーン(キャサリン・ヘプバーン)は長い秘書生活で青春をすり減らし、ようやくヨーロッパ見物の夢を実現し、ベニスまでやってきました。
 女の一人旅では、初めのうちは見るものすべてがめずらしかったが、やがて孤独感にさいなまれる日々が続きました。そんな彼女の前に骨董品店の主人レナード(ロッサノ・ブラッツィ)が現れ、親しくなります。しかし、彼に妻がいることがわかって、やけ酒を飲むシーンがあります。この時のつまみがポテト・チツプ。
 イギリスでは、チップスをクリスプと呼びます。これには「そう快で、パリッとする」の意味があります。ジェーンは、これを食べてスカッとしたのでしょうか。
 チップスと言う言葉の出てくる映画では、「チップス先生さようなら」というのも見ました。作者ヒルトンの母校のラテン語担当の恩師をモデルにしたものでした。ただただ固く、伝統を代表したような主人公の前に、近代的女性キャサリンが現れ、結ばれていく話でした。二人は保守主義と自由主義を表徴し、チップスはあだ名と理解しましたが、どんな意味につかっているのか私には解らずじまい。
 そこで、ポテト・チッフプスから連想されるものを拾ってきて、つなぎとする。御免。  井狩春男著「返品のない月曜日」(昭和60)より、
『本を食べ物にたとえるとナンになるか?
 文庫本は、一口チョコといったところ。雑誌はポテトチップス。
 文芸書は、塩コンブで、全集ものは、スルメイカ。人文書は・・・・・
 どうするかな、ヤキトリとする。辞書はフランクフルトソーセージ。
 絵本は、ポッキーといったとこか(なぜかみんな酒のつまみになってしまった)。』

5. わかれ道
 たくさんある映画の中で、題名にポテイトウが入ったのは、原名「One Potato,Two Potato」だけでしょうか。日本語訳の題名は「わかれ道」でした。
 1956年の映画「ジャイアンツ」に出たこともあるバーバラ・バリーは、これで1964年カンヌ映画祭主演女優賞をもらっています。監督はラリー・ピアスで、彼のデビュー作。
 人種問題というアメリカの深い病巣をえぐりつつ、親と子のつながりを描いた映画。
 オーヴィル・H・ハンプトンの小説を映画化したもので、エレンという女児をつれた白人女性ジュリーが真面目な黒人労働者(バニー・ハミルトン)と家庭をもつが、行方不明の夫が戻り、娘の親権を主張し...。結婚をめぐって人種差別というアメリカの病巣をえぐったものでした。最後に白人の前夫のもとに引き取られることになったエレンが悲しみと怒りをこめて母親の体を打つ印象的シーンがありました。母子の愛を描き、男まで泣かせる映画です。
 原題名は、映画に出てくるエレンと近所の子供たちの遊び歌からとったもののようです。(河合半兵衛さんによる)
One Potato, Two Potatoes Three Potatoes, Four
Five Potatoes, Six Potatoes Seven Potatoes, More
 不勉強のため、Potatoesはジャガイモかサツマイモかつかんでいませんが、芋は、話の流れとは直接関係なく、一シーンからとったもの。この歌は、イギリスの子供が日本の『じゃんけん』などのように遊びの際に歌っているとか。

6. スターウォーズ
 遥か彼方の銀河系における大冒険の話。悪の化身の親衛隊長ダース・ベイダーの率いる帝国軍と設計図持ち出しという特殊任務を持ったチビ・ロボットと偶然に出会ったルーク・スカイウォーカーら自由の戦士たちの反乱軍とのあいだで、激烈な戦いが続けられていた。氷の惑星ホスの秘密基地を帝国軍に発見され、激しい攻防の末、反乱軍は全員退去することになります。
 ハン・ソロ、レイア・オーガナ姫たちはファルコン号で脱出する。しかし、敵の宇宙船に追われ、小惑星帯に飛び込んでしまう。
 この宇宙空間に点在する無数の小惑星の中にSFXスタッフが遊び心で入れた本物のジャガイモが1個混じっていると言う話です。
 お金も暇もある?という貴方。ビデオを借りてきて、このロンドン交響楽団のシンフォニーを楽しむのもよし、それとも惑星を念入りに調べますか。
 1977年、当時33歳のジョージ・ルーカス監督らしい映画でした。

7.7年目の浮気
 エアコンを持たないアパートに住むマリリン・モンローが、地下鉄通過時に換気孔から出てくる涼しい風をスカートの下に受けつつ、「今度の方が前のより涼しいわ。きっと急行ね」と言いながらまくれ上がったスカートを両手で押さえるあのポーズは、お忘れないはず。
 モンローの住む部屋の下には、結婚7年目の男リチャードが一人でいた。トマトの植木鉢を落とした彼女が、エアコンのある彼の部屋に始めて入った日に、輸入もののシャンパンと袋入りのポテトチップスを持参します。
 実はこの少し前、「俺は幸福だ。ヘレンは得難い妻だ。酒、タバコ、女はやらないぞ」、と考えて、酒などを入れたロッカーの鍵を本棚の上に投げ上げておいていた男でしたが、シャンパンにチツプスを食べ、一緒にピアノをひいていくうちに・・・。美しさに負けて襲いかかりそうになるため、チップスを持ってお引き取り願うことになりました。(ビリー・ワイルダー監督、1955年映画)...<< 浅間 和夫 >>

8.静かなる男
 1952年。ご存知のジョン・ウェン主演のアメリカ映画です。西部劇の王様ジョン・フォード監督が両親と自分の心の故郷アイルランドを舞台に、土地を愛するなどのアイルランド人かたぎをユーモラスに描いております。これには原作がありますが、登場人物の名前はほとんど変えています。原作者のモーリス・ウォルシュは農家生まれでダブリンで小説を書いていたアイルランドま代表作家のひとり。なおこの映画は、監督が初めて海外ロケしたものですが、場所はモーム・クロスやコニマラの海岸などで、石の多いところやピートも見られます。室内の撮影はアメリカに帰ってからセットでやっています。
 映画は、無口なジョン・ウェインが一旗あげてアイルランドの村に帰ってきたところから始まります。その日、(今はゴルフ場になっているところで)羊を追う赤毛の美女メリー・ケート(モーリン・オハラ)を見て一目惚れします。
 彼女の家の夕食では、ゆでた大きめのジャガイモを配る風景が出てきました。故郷とさけたこの村はアイルランドのダブリンの近くでした。その昔ジャガイモに頼っていたこの地方で、19世紀半ばにジャガイモに疫病というカビが原因の病気が大発生し、これを防ぐボルドーなどがまだ知られてなかたので、飢餓に見舞われ、ケネディやレーガン大統領のひいおじいさんが村を離れ、アメリカへと渡ったこともありました。そんなとこですから、ジャガイモが今でも毎日食卓にの上がっています。
 結婚に反対する彼女の兄のものに、マッチ・メィカーと一緒に挨拶に参上した日の夕食にも、私の期待を裏切ったりしないで、ジャガイモとミルクが出ていました。そして、結婚した翌日も彼女はバラより、『キャベツやポテトを植えたら』と言ってくれた。まさにアイルランドが舞台らしい、ジャガイモ好きを喜ばしてくれる映画でした。<浅間和夫>

9.ビッグ、仁義なき戦い
 「ビック」は1988年のアメリカ映画です。子供のセンスを持つ青年ジョシュがおもちゃ会社に入り、社長の目にとまり、重役にまでなってしまう話です。その重役会議のマンネリさにうんざりし、重役用の車で女スーザンと青年の家に向かうとき、その中でフレンチフライが出てきました。
 国によって、当然出てきてよいものが出てきます。アイルランドが舞台のときに出てくる皮つき水煮いもをフランスやアメリカに期待でき難いがオランダなら大丈夫でしよう。
日本の映画ではジャガイモ自体にお目にかかることはほとんどありません。出るのはやはり戦後の食糧難を描くものになります。
 1973年の深作欣二監督による菅原文太、松方弘樹らの出てくる映画「仁義なき戦い」で見ました。
 かたぎの広野こと菅原文太が、坂井こと梅宮辰夫と刑務所で食べる食事に丸ゆでされたジャガイモを見つけました。当時の普通の家庭でも銀シャリにありつくことが少なかったのですが、刑務所内の粗食のシンボルとしてかチラッと出ました。そして当然不満の言葉も並べられていいました。
 欧米では囚人のことを 『Not quite the clean potato』(あまりきれいでないジャガイモ) と遠回しに表現しますが、さしずめこの映画では共食いをしていることになりましようか。<浅間和夫>

アメリカ映画『コブラ』
映 画 2 (つづき)


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