私は、上野動物園、名古屋モンキーセンター、平成9年からは旭川動物園など、日本の主な動物園に棲んでいるアビシニア・コロブスというサルです。
ちょっと取っつきにくい学名ですが(注)、アビシニアは現在のエチオピアのことです。また、末尾に何故かブスとついていますが、とんでもないことで、実は私達は世界で一番美しいサルだと自負しています。その美しさ故か、上野動物園の夏目直美さんにはとても可愛がってもらっています。黒と頬を中心とした白のツートン・カラーのバランスはパンダ以上でしょう。「クロシロコロブス」とも呼ばれ、オナガザルの仲間で、尾は長く、体長は約60センチです。
もともとは東アフリカなどの森林の樹上に棲息し、木の葉を主体に、木の芽、果実、花なども食べていました。そんなわけで、肉食の人間に比べますと、おならの臭いも上品です。
動物園でいただく食べ物では、果物よりも、野菜、特にジャガイモが好きです。
日本の動物園に来てから、初め他の果物好きのさる同様、サツマイモを中心にもらっていましたが、北海道のジャガイモを一度もらってからは私どもだけ、そちらのほうが好きになりました。「メークイン」より、どちかかというと「男爵薯」に手が伸びていましたが、一度北海道は端野町産の「ワセシロ(ネオ男爵、伯爵)」を口にしてからはそちらが大好きになり、上野動物園の仲間では9頭で年間1.8トン食べるようになりました。
飼育係が皮を剥いて品種名が判らぬように混ぜてくれても、本能的に区別できます。
生で給仕されますから、一気に食べませんが、翌日まで置けばはっきり判ります。「ワセシロ」は剥皮褐変が少ないのです。それだけでなく、蛋白質組成などからくる風味などを全身で区別できるからでしょうか。飼育係も不思議に思っています。
聞くところによると、北海道のネズミも、幾つかの品種があれば「ワセシロ」に真っ先きに手、いや歯が寄っていくそうです。しかし、魚のフナは煮崩れの少ない「農林1号」が好きで、これがため人間に釣られてしまいますと言ってました。「ワセシロ」や「キタアカリ」は煮え上るのが早く、崩れやすいから釣りの餌には向ないのでしょうね。
今後おいしい品種の選抜は、私共サルかネズミに任せたほうがいいと思いますが、いかがでしょう。
最近、ジャガイモの品種改良で害虫の被害を軽減するため、葉中のデシミン含有の高いものの育成が進んでいますが、タバコのニコチン、トマトのトマチン同様、虫が嫌うものは私どもサルにとってどんなものになるか心配なんですよ。
何故、私達が「ワセシロ」を好むのか、知りたいとこでしょうが、それは難しいことなのでしょうね。von Skramlik先生なら(1926)、