ポテトエッセイ第98話

***低温貯蔵したイモに***

発ガン性物質増える?

【ジャガイモ博物館】
Q:近年、氷室貯蔵、雪中貯蔵などの低温長期貯蔵の甘くて美味しいジャガイモが出回るようになりましたが、発ガン性があるって本当ですか。 

@炭水化物を多く含む食材を油加工など高温で加熱すると、発がん性の疑われているアクリルアミドが生成することが知られています。
Aポテトチップなどジャガイモ加工食品に高いレベルでアクリルアミドが含まれる場合があることも判った。
Bアクリルアミドは主として、120℃以上でアミノ酸の一種である遊離アスパラギンと還元糖(ブドウ糖や果糖)が、加熱されると生成されます。
C生イモを低温貯蔵すると甘みの素である還元糖(グルコース、つまりブドウ糖)が増える。
 このようなことから、低温貯蔵したものは危険、と思われることがあります。
 実際には、『甘みの素は焦げの元』という言葉がありますように、低温貯蔵したイモは家庭でポテトチップスやフレンチフライにすると褐変が激しく、もともと揚げものには向いていません。揚げる温度は必要以上に高くしない。揚げる時間を長くしないことが大切です。業者なら酵素アスパラギナーゼを使うと効果があることも知られています(2010ベルギー。我が国では食品安全委員会の食品健康影響評価を受けてから厚生労働省の食品添加物指定を受ける必要有り)。
 揚げたり、炒めたりするとアクリルアミドが発生しますが、煮たり、ゆでたり、電子レンジ加熱ではほとんど発生しません。低温で貯蔵したジャガイモはこのような和風料理に使いましよう。アスパラギンや還元糖は、それぞれを単独に加熱してもアクリルアミドは生成しません。加熱行程の後(高温加熱直後を除く)に調味や栄養強化を目的にそれらを添加してもアクリルアミドは生成しません。アクリルアミド:ほ乳類で LD50=100mg/kg ,発がん性あり。生分解性は高いので、体内に蓄積されることはない。

ジャガイモを家庭で揚げるには「こがね丸」が適し。「ワセシロ」、「オホーツクチップ」などの新ジャガもいい。業務用で貯蔵に比較的耐える品種としては、「スノーデン」、「きたひめ」、「らんらんチップ」、「リラチップ」があります。もし冷蔵庫で保存していたものを揚げ物に使う場合には、室温に一週間程度置いておくと焦げの原因となる還元糖が減ります(リコンディショニング)。
低温貯蔵されたものは甘みが増えて『旬の味』として喜ばれますが、休眠期間の短い「メークイン」「レッドムーン」「キタアカリ」、「デジマ」などのの萌芽抑制のためにも有効です。 なお、極端に休眠の短い「インカのめざめ」は低温貯蔵してもグルコースは増加せずスクロース(蔗糖)が増えて甘くなるので、揚げてもアクリルアミドの心配が少ない。

 ヒトがアクリルアミドを大量に食べたり、吸ったり、触れたりした場合に、神経障害を起こすことがこれまで確認されているほか、国際機関は、動物実験の結果から、ヒトにおそらく発がん性がある物質とアクリルアミドを分類しています。
 アクリルアミドは、炭水化物を多く含む原材料を高温(120℃以上)で加熱調理した食品に含まれています。例えば、ポテトチップス、フライドポテトなど、ジャガイモを揚げたスナックや、ビスケットのように穀類を原材料とする焼き菓子、パン、トーストなどに、高濃度に含まれていることが報告されています。(平成14年スウェーデン食品庁)
 コーヒー豆、ほうじ茶葉、煎り麦のように、高温で焙煎した食品原材料にも水にとけやすいアクリルアミドが含まれています。日本に特有の米菓、インスタント麺、ほうじ茶、麦茶などにも含まれています。

 FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、食品に含まれているアクリルアミドがヒトに神経障害を起こしたり、ガンを発生させたりの悪影響をおよぼす可能性が高いことから、食品中のアクリルアミドを低減するための取組みを継続するよう各国に勧告しています。

 海外のいずれの国や地域でも食品中の基準値は設定されていません。しかし、国際的に、食品から摂取するアクリルアミドの量を少なくするために、食品に含まれているアクリルアミドをできる限り低くしなければならないということが、行政機関と食品事業者の共通認識となっています。
【追記】(2016年4月、内閣府の食品安全委員会の評価書によると)(野菜や穀物を高温調理すると増加することが知られている)アクリルアミドは、人の健康への影響は明確ではないが、懸念がないとは言い切れないため、摂取量をできるだけ減らす必要がある。としています。


【一口メモ 1.】糖(炭水化物)の種類


天然高分子のなかで、植物の光合成により、二酸化炭素と水から作られる化合物を糖類(炭水化物)と呼ばれています。
糖類はその構造から、単糖類・二糖類・多糖類に分類されます。
1.単糖類 
A グルコース(ブドウ糖)
 普通のジャガイモ品種の甘さのもとです。
特徴@  白色粉末状の結晶、水に溶けやすい。動植物の体内に存在している。
特徴A  水溶液中では、α型・アルデヒド型・β型の3種類の異性体が平衡状態になっています。
B フルクトース(果糖)
特徴@  白色粉末状の結晶、水に溶けやすい。果実・蜂蜜に含有され最も甘味が強い。
特徴A  水溶液中では、2種類のβ型とケトン型が平衡状態になっています。
C ガラクトース 特徴@  寒天やラクトース(乳糖)の加水分解で得られます。
2.二糖類。単糖類が2個結合したもの
A  ラクトース(乳糖) =ガラクトース + グルコース
B スクロース(ショ糖)=グルコース  + フルクトース
 「インカのめざめ」がこれを含有しています
C マルトース(麦芽糖)=グルコース  + グルコース
3.多糖類:単糖類が多数結合したもの。グルコースが多数結合してできた多糖類:
デンプン(植物)
グリコーゲン(動物の肝臓と筋肉に多い)

【一口メモ 2.】アミロース、アミロペクチンとは


アミロース (amylose) とは、多数のα-グルコース分子が、直鎖状になった高分子です。熱水に溶ける性質があります。
アミロペクチン (amylopectin) とは、多数のα-グルコース分子が、枝分かれの多い構造になった高分子です。ともにデンプン分子ですが、この形状の違いにより異なる性質を持っています。
 コメを例にしますと、粘りけが少ないものを粳(うるち)、多いものを糯(もち)と言い、それぞれ粳米(うるちまい)・糯米(もちごめ)と呼ばれています。アミロペクチンは粳デンプンには 80% ほど含まれ、糯デンプンは 100% です。通常の植物のデンプンにはアミロースを 20% ほど含んでいますが、トウモロコシの中には、このアミロース含量を 80% 程度にまで上げた品種(高アミロース種)もあり、そこから取り出されたものを高アミロースデンプンと呼んでいます。

【一口メモ 3.】ヒトがデンプンを食べると


(以下 ウィキペディアより転写)
ヒトがデンプンを食べるとまず、口で唾液中の消化酵素アミラーゼ(唾液アミラーゼ;プチアリン)により、アミロースとアミロペクチンのα1-4結合が不規則に切断され、デキストリンやマルトース(麦芽糖)に分解されていく。デンプンを含む食品を噛み続けると甘味が感じられるようになるのはこのためである。
唾液アミラーゼの作用は食べ物が胃に送られた後もしばらく続くが、強酸性の胃液によってアミラーゼは次第に失活する。
胃の内容物が十二指腸に送られると、膵臓から分泌された膵液によって中和される。そして膵液に含まれるアミラーゼ(膵アミラーゼ;アミロプシン)によりデンプンは二糖類であるマルトースにまで分解される。
マルトースはさらに小腸壁に存在するα-グルコシダーゼ(ヒトでは小腸上皮細胞に膜酵素として発現している消化酵素である。膜酵素であるのは、吸収直前に単糖に分解することで腸内細菌などに栄養を奪われにくくする為である)により最終的にグルコース(ブドウ糖)に分解され、小腸で吸収される。

* 質問一覧表へ行く
* 当館内の項目からの検索へ行く
スタート画面へ戻る