◎ジャガイモの品種改良から、品種の普及までの流れを教えてください
北海道を例にして、大ざっぱに言いますと、次のようになっています。
1.新しい系統を選抜、育成する
国(独立行政法人)、北海道、ホクレン農業協同組合連合会で行っています。
2.道内に奨励できる品種に値するか試験してみる
外国から導入した品種を含め、有望系統について道内の道立、独立行政法人
北海道農業センター(元北海道農業試験場)、現地試験などで、特性や各地域に
適するかのチェックをしています。(試験場3年、現地2年)
3.北海道の奨励品種(優良品種)に決める
北海道農業試験会議を経て、北海道庁が決めています。
電話011-231-4111内線 27-725
4.種苗管理センターが原原種(無病元たね)を増殖しています
独立行政法人種苗管理センター(北広島市にある北海道中央農場*など)が
行っています。*011-375-3611
5.ニーズに合わせて種いもを計画的に増やしています
道(支庁)が中心になって必要な原採種圃(ほ)の面積を決めています。
(9月上旬:全道種馬鈴しょ需給会議)
種いもの流れ:育種家種いも−−>原原種−−>原種*−−>採種−−>一般農家
*道が原種ほ設置団体(原原種取扱団体)を指定しています。
原種ほや採種ほは国(植物防疫所)の検査を受け、その検査に合格したものでなければ、
販売することができません。(ウイルス病や線虫のないものを買いましょうょう)
6.一般農家は、採種ほ産の種いもを買ってジャガイモを生産しています
農協、集荷業者などが集めて、ホクレン、市場、スーパーなどを経由して消費者の
手に渡っていきます。
◎品種改良(育種)を行っているところをお知らせください。
わが国におけるジャガイモ(ばれいしょ、馬鈴しょ、馬鈴薯)育種場所としては
次のところがあります。
A 独立行政法人北海道農業研究センター ばれいしょ育種研究室
〒080−0071 芽室町新生南9線2番地、TEL:0155-62-2721
(昭和12年〜。前恵庭市、平成9年から芽室町。農林1号、トヨシロ、
ホッカイコガネ、キタアカリ、とうや、さやか、インカのめざめ、
シャドークイーン、こがね丸、インカのひとみ...を育成)
地方独立行政法人北海道立総合研究機構農業研究本部北見農業試験場
(旧北海道立北見農業試験場 馬鈴しょ科)
〒099−1496 北見市訓子府町字弥生52番地、TEL:0157-47-2146
(昭和32年〜。前中標津町、平成10年から訓子府町。ワセシロ、コナフブキ、
ムサマル、ナツフブキ、花標津(はなしべつ)、オホーツクチップ、ゆきつぶら、
さやあかね、コナユキ等...を育成)
C ホクレン農業協同組合連合会 農業総合研究所
〒061−1364 恵庭市下島松829、TEL:10123-36-3356
(長沼町及び恵庭市(平成9年〜)。ポテトチップス用品種
ノースチップ、きたひめ、ひかる...の育成、マチルダ、アスタルテ等の導入)
D 長崎総合農林試験場 愛野馬鈴薯支場
電話:0957-36-0043
(昭和22年〜。愛野町。デジマ、ニシユタカ、アイノアカ、メイホウ、
普賢丸、アイユタカ...を育成)
この外、十勝農協連合会(帯広市)、北海道外では、サカタのタネ、キリンビールなど
も多少行っています。
◎どのようなものが北海道の優良品種になれるのですか
主として公的育成場所で育成されたものは、北海道の例で言うと、各地の農業試験場での試験を3年、現地試験を2年行って、毎年1月にある農業試験会議での成績検討を経て、北海道の奨励品種となります。
北海道の優良品種になるには、最低次のひとつをクリアしなければなれませんでした。
ア.対照品種に比較して全般的に収量が多く、かつ大きな欠点がない。
イ.対照品種と収量が同程度であるが、明らかに優点が認められ大きな欠点がない。
ウ.対照品種より収量の多いことが明確に示されない場合でも、普及対象地域で問題となる
重要形質が対照品種より明らかに優れている。
近年は、消費者ニーズへの対応などから、何かひとつ個性的なものがあっても品種になるように変わりつつありますので、詳しくは北海道庁農政部農産園芸課種苗担当(電話011-231-4111内線 27-725)にお問い合わせください。
◎ホクレンのような農業団体とか民間が育成したものでも優良品種にしてもらえますか
もちろんです。海外から導入した品種でも、北海道種馬鈴しょ協議会(事務局ホクレン種苗園芸部種苗課)に入り、北海道内試験場で3年、現地2年の試験を実施して、優れたところが認められますと北海道の奨励品種にできます。(例.アスタルテ、マチルダ、のほかカルビーポテトがアメリカより導入したアトランチック、ヤンキーチッパーなど)
ばれいしょの育種(品種改良)は主に公的機関によって行われてきましたが、ニーズの多様化とあいまって、地域特産を目指した地域在来品種の見直し、加工専用品種を中心とした海外からの品種導入、農業団体や民間でも行われるようになってきました。そこで、国や北海道では次のように対応することにしています。
◎優良品種の原原種はどこで増殖していますか
育種家種いもを受け取った<農水省種苗管理センター>で行っています。農家に積極的におすすめしたい優良品種以外のものでも一定の条件が充たされていれば増殖してもらえるようになりました。
つまり、「種苗管理センターにおける馬鈴しょの地域在来品種、民間育成品種等の原原種生産の受入れについて」(平成4年3月31日 4農蚕第1662号)により、以下の条件を満たしている地域在来品種、海外導入品種及び民間育成品種の原原種生産を行うことが出来るようになりました。
1.採種指定道県において「増殖計画」が策定されていること
2.増殖を予定する採種指定道県の知事から要請がなされていること
3.種馬鈴しょの増殖は採種指定道県で行うとともに、1の増殖計画には、品種特性、原原種配布申請計画、原・採種ほ設置場所、設置面積、生産量及び種馬鈴しょの配布先が明記されていること
注:種苗管理センターは育成者もしくは権利者と無償を前提に許諾契約を結び、「もと種」は寄附行為として受け入れる。
◎平成15年の種苗法改正についてお知らせください。
農林水産省に出願し、登録された品種は、種苗法により保護されます。つまり、新品種を生産・販売するときはこの登録で発生した育成者権をもつ者の許諾を必要とします。ジャガイモ品種登録の存続期間は15年から20年になりました。
国内で育成・登録された品種を無断で海外に輸出とか持ち出しをしたり、その収穫物を輸入したり、売ったりしますと罰金が科せられたり、税関で没収や廃棄されることになります。わが国で育成したものを(名前を変えたものも注意)海外で生産し剥き薯などとして輸入するときは育成者の許諾をとっているかよく確認する必要があります。
また、業者や農家が、育成権者などの許可がなされていないいも(収穫物=塊茎自体、洗浄後カット、冷凍、乾燥したもの)を利用しても権利の侵害となってしまいます。しかし、サラダなどのように加熱、味付けしたり、粉挽きしたものは『加工品』になります。法人に対する罰金額の上限は一億円になるなど厳しくなりましたので、注意しましょう。(以上は2003年現在の話。今後は☆へ)
種苗法の一部を改正する法律は2003年7月より施行。
関税定率法の改正はより2003年4月施行。
【☆問合せ先:北海道農政部農産園芸課 種苗担当主査 011-231-4111内線27-725】
◎品種関係の<北海道庁の対応>はどうなっているのですか
上記の通達を受けて、北海道においては「馬鈴しょ地域在来品種等の増殖申請受入要領」(平成11年3月23日 農産園第2644号)により、民間からの地域在来品種等の増殖申請の受入方法について、概略以下のような規定を定めています。(例.レッドムーン)
1.北海道に種馬鈴しょの増殖申請をしようとするものは、3月末日までに申請書を北海道庁の農政部長に提出し、農政部長は農業試験場、専門技術員、採種団体からなる検討会議を開催して検討する。
2.受入要件としては
・生食・加工食品用、鑑賞用等として、有望であり、消費者ニーズの多様化に
・対応できるもの
この他、育成者または権利者の許諾を得たものであることと。
3.品種特性が明らかなもので、原則として道内の公的試験研究機関における品種特性試験成績書を添付することとし、それがない場合には1年間試験を行うこと。
4.増殖計画に無理がなく、継続性(5年以上)があり、面積が少ない特定地域で栽培するものであること。(原原種生産量は10〜100袋)
【変わりつつありますので、詳しい問合せ先:北海道農政部農産園芸課 種苗担当主査 011-231-4111内線27-725】
◎「ばれいしょ 農林○○号」と言うのを聞いたことがありますが(農林登録)
育成場所が、国の機関(北海道農業試験場:北農試とも言います)または、国から指定補助金をもらっているところ(道立北見農業試験場 馬鈴しょ科と長崎県立総合農試 愛野馬鈴薯支場)の場合は、『農林水産省の命名登録』が必要となっています。
農水省が責任を持って普及しうるに足る優良性があることが必要で、これにパスすると「ばれいしょ 農林○○号」とこれだけでは無味乾燥なので愛称「品種名」が付けられます。
例.ばれいしょ 農林38号 「花標津」
◎この外に品種登録(種苗登録)があるとか
農林登録されたものはもちろん、民間が育成したものでも、優秀でなくても、既存のものとの区別がはっきりしていれば品種登録が可能です。登録出願がなされますと農林水産大臣はすみやかに官報で、出願公表します。異議などなく確定しますと、20年間にわたり育成者の権利保護がなされます。つまり、これを栽培する場合、カラオケで、歌の作詞、作曲とか小説の著作権者に支払っていもものに相当する許諾実施料の支払いが必要となります。
各品種の特性は、下からのリンクvmenu.htmlで御覧ください。
◎種苗登録はだれでもできますか
普及奨励できるようなものでなくても、従来の品種と明確に区別できるものであれば、国、都道府県、それ以外の公的機関、会社組織、個人が育成したものでも種苗登録できます。
例.十勝農協連の「エスペランサ ローハ」、サカタのタネの「レッドムーン」。
◎名前を考える際のコツとか禁止事項などあれば、お聞かせください。
育成者が新品種命名登録する際に名称候補を幾つか提出しますが、次のようなものは避けたほうがすんなり採用されましょう。
ア.発音、表記が困難な名称
例:「ジュゲムジュゲム...」など極端に長い名称や、!、?等の記号を用いた名称。
イ.比較級または最上級の用語を含む名称
例:「やや豊作」、「日本一」。「粉無双」(澱粉収量において、並ぶものが無いほど穫れる。日本一の意味になるので、将来、さらに多収な品種名が出てくれば矛盾を生じるとして、一度官報に載ったものが「サクラフブキ」に替わった例があります。
ウ.育成、特性、種類等に誤解を与える名称
例:つくばと関係ない品種に「つくばゴールド」。多収でない品種に「ゆたかみのり」
エ.植物名(分類学上の種名、属名等、植物または植物群の俗称)を使用した名称
例:「○○いも」「○○ショウズ(小豆)」など
オ.その他、農家や消費者に誤解を与える名称等
以前、中標津町”桜ヶ丘”にあった根釧農試馬鈴しょ科で育成した「サクラフブキ」ですが、植物名の”サクラ”が入っているが採用されています。
カ.差別的な言葉、品格の劣るもの
かって道立中央農試育成の納豆用小粒大豆に、「チビマル」を出してもらったことがありましたが採用されず、「スズマル」となったことがありました。デブ、ブスもつけられません。その次に出した時は「ツルムスメ」としたところ即採用されたことがありました。
◎種いもの増殖・採種の流れはどうなっていますか
原種圃・採種圃で生産する種いもは「農水省植物防疫所」の検査を受け、これに合格しないと種いもとして販売でません。種いも購入の際は紙袋またはダンボールの合格証票の有無と、種いもに異常がないかもすみやかに確認しておきましょう。