ポテトエッセイ第1話

好みの味【ジャガイモ博物館】


【写真は『アスタルテ』の花】 本州に住む知人にまずまずの品と思うジャガイモを送ったことがありました。しかし、その後期待に反し、味などの点で不満足との返事が返ってきました。
 その原因がわからぬまま、何年か過ぎた春、九州を旅行する機会がありました。その折、雲仙の山裾で掘り立ての新ジャガを御馳走になりました。その蒸しただけのものは、いわゆるホクホクしたものではありませんでしたが、落ち着いた甘みがあり、北海道生まれの私には新鮮な味がしました。
 この肉色が黄で、やや粘質の新ジャガを食べながら、九州に永く住んだ経験をもつ先の知人には、この味が彼のジャガイモの味となっていたのではないか、と気がつきました。この知人は、イクラや納豆が好きではありません。子供のころからの食経験が少ないため、まずいと決めつけているのではないでしょうか。北海道でも、自分の住む村のジャガイモが日本一だと思っている人が多いのは、愛村精神だけでなく、口がイモに合うようになっているのかも知りません。
 関西では、やや粘質で甘味のある、黄肉のジャガイモが、関東以北では粉質のものが好まれる傾向にあります。これはそれぞれの地方の栽培条件にも関係しているのでしょう。温暖で年に2回ジャガイモをつくれるところでは、後に植える作物を考えたり、梅雨期に入る前に収穫しなければならないため、青い葉がまだたくさん着いているうちに掘り取ってしまうので、未熟で、煮くずれが少なく、甘味が強いのです。しかし、北海道のように、1年1作で葉の自然な黄変を待ってから掘るところでは、糖分がでん粉にかわり、ホクホク(北々!)したものになりやすいのです。
 このため、暖地産のものは、カレー、シチュウ、おでんに向き、寒冷地産は一般食用、サラダ、スープに向くことが多く、暖地産のものではきれいな色のポテトチップスになり難いのです。極端にでん粉の少ないのは煮てもゴリゴリの場合があり、これはつくり方が悪いのです。
 北海道産の『男爵薯』などのホクホク・ジャガイモでも、冬期間寒いところに保存しているとしだいに甘味を増していき、1,2月ころには煮くずれが少なくなってきます。一般に出回ることが少ないのですが、北海道で広く栽培されている『紅丸(べにまる)』と言う品種はこの傾向が強いのです。未熟なうちに掘りおこされたり、寒さで甘味が増えてしまったジャガイモはポテトチップスやフレンチフライにすると、揚げたものが黄金色とはならないで、カステラのような焦げた色になってしまいます。このため、お店では、品種名や適する調理方法を示して売ってほしいものです。ドイツではそのような売り方が多いと聞きますが、ジャガイモをもっと食べるようにならないと、望んでも駄目なことかも知れません。
 そこで、ドイツに見習って消費者にわかり易い品質表示運動を勧めていますラベルの赤は粉ふき用、緑はサラダ・マッシュ用、青はシチュー・煮物用です。買った方も助かり、生産した方も努力した品質、材料を生かしてもらってうれしくなるのではないでしょうか。
 少し脱線しましたが、ジャガイモの好みは、国の間でも違いがあって、オランダやドイツでは黄肉でやや小粒が、イギリスやアメリカでは肉の白いものがけっこう多いのです。また、日本では砂壌土の畑でとれたものをホクホクして美味しいと言う人が多く、おコメ同様に、泥炭地産はまずいと言われていますが、ドイツやオランダでは、泥炭地でとれたものが美味しいと言う人もいます。私の住む北海道のどこに行っても、わが町のものは日本一だ、と信じている人が多いのは面白いことです。

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