ポテトエッセイ第6話

アイデアマン・梅村芳樹さん【ジャガイモ博物館】

 私の友人に梅村さんというジャガイモ育種家がおります(平成1桁後半に公務員から退く)。育種(品種改良)という仕事は、交配から品種になるまで10年近くかかりますので、見方によっては苦労の多い仕事なのですが、本人は来訪者などにいつも『私はバカで、遊び半分やっているから、仕事は非常に楽しい』とおっしゃっています。
 育種が楽しいのは、創造的な面があるからだと思います。今まで一般には知られてなかった新しい製品に結び付くものとか、これまで知られている料理や加工品などの品質向上、潜在需用の拡大に役立つものもあります。
 彼はアイディアマンで、かって九州で6年間過ごし、甘くないサツマイモをつくり、紫(アントシアニン色素)やオレンジ(高カロテン)のサツマイモを見直したりしました。
 ほとんどの人は、彼がネクタイをつけている姿を見たことがありません。形式ばった会議でもノー・ネクタイで通していますが、このラフなスタイルが自由な発想を生むのに役立っているのかも知れません。
今彼が関心をもっているのは、「花も実もあるジャガイモ」と表現したらいいのでしょうか、美しい花、長く咲いている花をつけた鑑賞用花をつくり、観光地で生かしたり、マンションのベランダにつくって、後ほど地下のおイモをいただく、というものです。これはヘルシーな作物をつくっている方などからよく要望を聞かされたりするものです。花には色の変化が多く、大小、星の切れ込みの深いものや浅いものなどあり、皆さんが想像している以上に多様なのです。しかし、ジャガイモの花は朝きれいに咲いていますが、午後にはしだいに花弁を閉じてきますので、夕方までもたすのは意外と難かしいテーマなのです。
 昔ベルサイユ宮殿で、マリーアントワネットがジャガイモの花を髪や胸元に飾ったと言われていますが、これが事実としますと、夜花がしぼまないようするためどんな工夫をしていたのでしょうか。
 また、彼はヘルシー、ナチュラル、イメージ・アップ、イメージ・チェンジの推進者でもあります。アメリカでは、ジャガイモの芽止めをし、保存性を高めるため、収穫後イモに直接クロロファム(クロロIPC)を使っています。これは日本では使用禁止のものですが、ときどき輸入ものに含まれていることが問題になっています。日本では薬を使わなくても長期貯蔵に耐えるもの、カロテンやビタミンCの多いものなどヘルシーを追求し続けています。
 また、北海道のジャガイモにはたくさんの実(ベリー)がなりますが、そのジャム化にも挑戦したようです。1度に実を10個も食べると人によっては下痢しますので、毒成分のないものの選定が大切です。
 この外、日中畑にジャガイモを捨てておいてもイモの表面が緑化したりソラニンが増えたりしないものとか、表皮が鮮紅色できれいなもの、肉に紫などの色がつくなどひと味変わったチップスになるもの、小さくてホクホクしたもの・・・と差別化、個性化に役立ちそうなものにも関心の高い人です。彼の態度に刺激されたのでしょうか、部下のMさんも最近蜂やアブの飛来するジャガイモをみつけました。ジャガイモの育種はいろいろ役立つ遺伝子を集め、10年先の需用を予想した交配から始まります。今何を考えていらっしゃるか、その稔りが楽しみです。(平成3年)

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