ポテトエッセイ第10話

月とジャガイモ【ジャガイモ博物館】

 「月とスッポン」、これはかけ離れたことを示す言葉ですが、月とジャガイモの関係はどんなものでしょう。
せきつい動物は、人と違って、昼に眠るタイプもありますが、一応皆二四時間周期の決まったリズムを繰り返しています。しかし、たまにはこれが崩れます。飛行機での海外旅行の際とか、徹夜マージャンなどがその例でしょう。
 ジャガイモでも、イモが親植物から生まれ、肥大を始めてからの休眠期を経て、萌芽伸長してまた親になり、イモを着生するということを繰り返えしています。
 休眠中のイモの酸素の摂り方は、休眠していないものに比べ四割でいい。ノース・ウェスタン大学のブラウン教授は、気温や気圧を一定にした暗い箱の中にイモを入れ、1日に消費する酸素の量を測り、その量が月の出入りにつれて周期的に変化することをつきとめました。つまり、地球の外からの力による海水の干満運動が、イモが持っている時計を支配しているというのです。海水の干満には、年・月・日・時間のリズムなどの多くのリズムがあります。干満は、気圧をはじめ、地球の磁場・宇宙線などの目に見えないものにも影響を与えているのでしょう。
 24時間の周期は気圧の変化とも密接な関係がみられました。この研究はNASA(アメリカ航空宇宙局)の要請によって始められ、生物体が宇宙環境にどのように反応するかを研究する手法の一つとして行われたものでありましたが、ジャガイモを使えば数日後の晴雨を予報できる、としました。
 実際に、外国のある地方では、満月の日を選んでイモを植えれば安全に収穫できるという伝えがあります。これは、満月の後数日すると雨が降ることが多く、乾燥で枯死する心配がないことを経験によって体得したのでしょうか。しかし、逆に三日月(新月)の夜のころがよいとの習慣もあります。これは、ジャガイモの持つ悪い力を避けるためだそうです。
 また、地方によっては、星の出た夜に植えると芽がたくさん出るからいいとか、上げ潮のときに植えたり、復活祭の前の金曜日に植えると潮にように盛り上がったり、縁起がよい、と言うところもあるそうです。逆に別の地方では聖金曜日はキリストの受難の日なので鉄の農機具を使うのはよくないとしているところもあると言います。
 最近は降雨や気温(従って地温)についての天気予報の精度が向上していますので、これを重視して植えるのが賢明なのではないでしょうか。また、ジャガイモが土中に置かれますと、地温が9℃以上にならないと芽を伸ばさない性質があります。畑の雪が消えたからなどと、一日のなかで9℃を越える時間が無いのに植えても出芽まで多くの日数がかかってしまいます。
 昔のヨーロッパの人びとにとって、ジャガイモは異教徒の食べ物でした。しかも種子(子実)からでなく、イモ自体を植えて育てていくめずらしい作物でした。しかも形がライ病を思い出させるものでしたので、恐るおそる食べた時期もあったのです。

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