ポテトエッセイ第26話

紅ですか,白ですか【ジャガイモ博物館】

 『もしもし、ジャガイモのことでお聞きしたいのです。旅のバスの中でカケをしたのですが、「紅丸」の花の色は紅ですか、白ですか?』 時折、こんな楽しい電話質問も農業試験場に飛び込んで来ることがあります。

「紅丸」(ベニマル)とは、数年前まで北海道内で一番広く栽培されていた品種です。バスガイドさんの説明に「紅丸」の正しい読み方は「コウガン」なのだと、とんだ御進講をする者があった後の話らしかった。『地下のイモに色のあるのは、地上の花も白ではなくて赤か紫だろう』と思われることが多く、クイズの種になるようです。
 しかし、イモの色は花のそれとは無関係で、イモが白の「男爵薯」や「ワセシロ」では花が着色しています。花もイモも白なのは「農林1号」、「トヨシロ」などで数は多くありません。 七月北海道内を旅行して回りますと、知床から網走にかけてとか、十勝などの道東では、でん粉原料用の「紅丸」、ポテトチップスになる「トヨシロ」、用途の広い「農林1号」の栽培が多いため、白花がじゅうたんのように続くことが多いのです。

【写真:道南はほとんど『男爵薯』だった】  しかし、道南では「男爵薯」(花は淡赤紫)、「メークイン」(紫に白の斑点)の比率が高く、着色派が強くなります。 深谷忠記のアリバイ崩しの力作小説『「札幌・仙台」四八秒の逆転』では、函館市北部の亀田中野町の山麓で、地元石川町の中学1年生3人組が女性の死体を発見したことになっており、その時の風景描写は、 「このあたりは、道が舗装されていないうえ長い坂がつづくので、彼らも滅多に来ない。両側は夏になれば一面、白い花の咲くジャガイモ畑になるところで、振り返ると、函館山が一望に収められた」となっていました。しかし、実際のこの辺はほとんど赤紫色の「男爵薯」が長くつくられ、開村以来ただの1度も小説のように一面白い花が咲くようなことがなかった場所なのです。

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