ジャガイモ品種「キタアカリ」(農林29号)(KITAAKARI)

(1)来 歴
 昭和50年北海道農試(現北農研センター)において、ジャガイモシストセンチュウ Ro 1 に抵抗性の食用品種の育成を目標に、「男爵薯」を母、抵抗性の「ツニカ(Tunika)」を父として交配し、昭和62年(1987)北海道の優良品種に決まったものです。名の由来は育成地、および線虫被害から守る希望と明るさを表現しています。
地方番号は「北海63号」、農林登録番号は「農林29号」です。羊蹄山麓、上川、十勝などで栽培され、「黄金男爵」、「ゴールデンポテト」、「VIP」などの名で売っているところもあります。

(2)地上部特性
 茎長は「男爵薯」より長く、「ワセシロ」程度です。茎数は中ですが「男爵薯」より多い。分枝数は少ない。茎の太さは中、茎色は緑色を基調に茎の基部に赤紫の斑点があり、茎翼は直です。幼芽には赤紫の斑点があります。圃場での萌芽時の葉色は紫色を帯びています。
 萌芽、初期生育とも「男爵薯」並ないしややよい。草型は「男爵薯」に近い中です。
 生育盛期の葉色は緑で、「男爵薯」よりやや淡い。小葉の形はやや幅広く、「男爵薯」(やや大〜中)より小さく「メークイン」程度です。花冠の形は中間で、花数と花の大きさは共に中です。
 花色は淡赤紫色、花弁の先端は両面とも白で、「男爵薯」に似ています。しかし、花粉量は多く、稀に結果します。
 茎葉黄変期は「男爵薯」より1〜2日遅い早生に属します。
 疫病抵抗性遺伝子を持たなく(r)、疫病抵抗性は弱です。塊茎腐敗抵抗性も「男爵薯」同様弱に属します。塊茎の軟腐病抵抗性は中ですが、茎葉の軟腐病発生は「男爵薯」と同程度です。粉状そうか病には「農林1号」より弱く、「男爵薯」並のやや弱です。青枯れ病には「男爵薯」並の弱です。乾腐病にやや弱い。
 広く発生しているウイルス病には一般品種並に発病します。葉巻病の次代の病徴は明瞭です。Yウイルスではれん葉症状が多く、条斑モザイクも現れます。
 ジャガイモシストセンチュウ抵抗性遺伝子H1を持っています。感受性品種と同様に線虫の幼虫が根に浸入しますが、この品種の根ではシストを形成することができなく、土壌中の線虫密度を低下させる効果があります。

(3)地下部特性
 塊茎の形は偏球形で、皮色は白黄色、目の部分に赤紫色の着色があります。表皮は「男爵薯」より粗で、目の深さ、目数はともに中です。塊茎の大きさは「男爵薯」並かやや小さい。収穫後仮貯蔵中に肌の粗が強くなる傾向があり、市場では外見に重きをおいて評価されるので、中身の品質の割には、不利のことが多い。
 休眠期間は「男爵薯」より短い中で、肉質の劣化も早く貯蔵性はやや劣ります。ビタミンC含有は「とうや」などより高い。肉色(カロテノイド系色素)は「メークイン」より濃い黄色、肉質は秋は粉質で、貯蔵の経過とともに粉質が低下していきます。
澱粉価は15〜17%で、最終には「男爵薯」より1%程度高いが、肥大の初・中期ではやや低い。
 株当りいも数が多くなるいも数型の品種で、上いも(20g以上いも)一個重の増加は「男爵薯」よりやや遅く、大きさは「男爵薯」より小さめですが、中以上いも(60g以上いも)の収量は「男爵薯」より若干多い。
施肥量に対する反応は「男爵薯」並で、1.5倍肥にした場合の収量は、中・小いも重の割合が減少し、大いも以上の割合が増加しました。栽植密度に対する反応は、3,419株から4,444/10aにすることによって若干増収しましたが、中・小いもの割合が高くなる傾向にありました。

(4)調理加工特性
 水煮塊茎の肉質は男爵薯(やや粉質)より粉質です。煮くずれの程度は、澱粉を多く含む細胞層が表皮に近い部分に多く、しかも澱粉の膨潤により細胞が球形となり、細胞同士の接着力が弱くなりやすいため、「男爵薯」よりやや多い中です。舌ざわりはやや滑、水煮黒変はありません。食味は「男爵薯」並です。肉色が黄色であり、2,3月になると、糖から生成水を生ずるためか、急に粘質を増し軟化するため、業務用には使い難い。
 煮た場合の仕上がりは鮮やかです。マッシュするときは茹でてからよりも蒸して使うほうが食感やコクが優ります。
 塊茎の中心空洞、褐色心腐は「ワセシロ」同様にほとんど見られません。
カロチン含有量が高く、またビタミンCが高い特徴があります。
用途は、つぶしサラダ、粉ふき、スープ、皮つきベークドポテト、蒸し、などのそう菜、外食産業に向いており、「ワセシロ」などと同様に電子レンジ加熱でもおいしく食べれます。道内の作付けは平成13年がピークであったが(1,565ha)、関東などで知られつつある。
 揚げた場合は食感が優れ、色が鮮やかとなりコクが濃厚ですが、ポテトチップスには、「メークイン」同様に向きません。また、煮物にも向きません。

(5)栽培上の注意
 浴光催芽では、芽の伸びが早いので、短めにとどめ、芽をかかないようにする。
 施肥量、栽植密度など栽培管理は「男爵薯」に準ずるが、密植は中以下のいも重割合が増加し、必ずしも経済収量の増加にならないので、10a当り、3,500〜4,000株がいい。
 排水不良地では、生育後期の大雨などによって、塊茎腐敗の多発を招くおそれがあります。また、「男爵薯」、「メークイン」同様にすべての疫病菌レースに侵されるので、その防除に留意する必要があります。

(6)一 口 メ モ  *** キタアカリは男爵薯より粉質 ***
  水煮すると、温度の上昇につれ、細胞内にある澱粉が水を吸い、膨潤してきます。このため細胞がゴム鞠に空気を入れるように球形に張ってきて、細胞が離れやすくなるものですが、細胞の大きい「キタアカリ」では細胞間の接着面積が小さく、細胞が容易に分離しやすい傾向にあります。しかもこの品種は細胞間隙の量が多く、細胞壁のカルシウムとガラクツロン酸量が低く、細胞を接着するペクチン質の分子間架橋結合力の低いことも知られています。


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左:母「男爵薯」に似た「キタアカリ」の薄赤紫色の花。
右:「キタアカリ」の塊茎。目(くぼみ)をよく見ると、そこにもかすかに色がついています。

約10年前(1987年)の品種ですが、最近ようやく知られてきました。見た目は「ワセシロ」より悪いが、私の好きな品種のひとつです。『ジャガイモはヘルシー』など、すばらしさの宣伝のおりなど引き合いに使わせてもらっています。


 表  ビタミンC含有率(mg/100g,生)北農試平成3年
品 種8月12日12月18日
キタアカリ45.723.9
とうや38.117.3
男爵薯34.615.8
ホッカイコガネ28.814.7

 表  ビタミンC含有率(mg/100g,生)北農試平成5年1月
品 種剥皮前剥皮後1昼夜
(濡れタオル覆い)
キタアカリ21.725.2
とうや17.822.1
メークイン15.317.1
男爵薯14.615.6
ホッカイコガネ12.913.9


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