あたいの名はモモちゃん。正しくはモモアカアブラムシ、どうぞよろしく。
ヨーロッパの殿方や学のある方はペルシャアブラムシ(Myzus persicae)と言う雅号のあることを知っているよ。貴方なら家の玄関で『おピンクちゃん』と呼んでもいいわ。
あたいの家は、桃や桜などの枝の芽の間や皮の裂け目(変な想像しないでよ)などにあるよ。そこに産みつけられた卵で越冬して、春には萌芽と同時にカワユイ幼虫になって、新芽の遊び場で過ごすの。その後、これらの木の葉の裏面に大繁殖し、モモちゃん一家を構え、木などの養分をダニのように吸いまくり、ジャガイモの葉などを縮みあがらせてんの。
やがて、ハズがいなくてもマスかくだけで子(卵じゃないよ)を生める体になり、これを2,3代繰り返すの。こんな芸当貴方にできますか?そう今流行りのバイテクかマリア様しかできないわよね。あなたは利口そうだから教えてしまうけど、この方式を単為生殖とか処女生殖とか言うのよ。
少し脱線したから話を戻すけど。そうこうするうちに羽のある雌虫が生まれてくると、ネギ類、イネ科以外のダイコン、キャベツ、ナス、マメ類、ウリ類などに移動して行くの。
寒さが近ずくと、雌がスモモなどに飛んでいき。葉の付け根にある小さな芽の回りに、数個ないし十数個ずつ、上品で貴方の肉眼でようやく見えるほどの卵を産みつけるの。春、これから生まれてくる幼虫は雌ばかり、これらの子は1週間か10日もすると、また幼虫を生むの。どんどん増やそうとすれば、女系にかぎるわ。何故そんなに増えるのかって?私たち非常に弱いからよ。ネズミ算なんて問題ではない。これからは、アブラムシ算と言って欲しい。かりに1匹が100匹の幼虫を生むとすると、1月で100万匹は越えるほど。春は翅なしなのは、そのエネルギーを卵巣をでかくするのに活用したいからなのよ。
特にあのイモが大好きなの。人間達はあたいがイモに近寄ると妬けるらしく、いやな顔して、口ぐちに『こいつらは、葉巻病やYモザイク病を移す悪いやつよ』などと言いつつ、2週間おきにアドマイヤーなどの殺虫剤をかけてきたり、オバサンが隠れている葉裏をねらって牛乳に展着剤を入れて*噴霧してきたりするの。 腹部に1対突き出した角状管から「警報フェロモン・β−ファルネセン」を分泌しても間にあわないし、チヨ−迷惑な話よ。私たちはどれがウイルス株か全然知らないのに、急性毒性や牛乳による気門の閉鎖で窒息死させられたりするのよ〜。二次病徴株とかを早めに抜き取っておけば、あたいがウイルスを移そうたってできないのにね。
あらっ少し風が出てきたわ。冷たい風、ナナホシテントウ、クサカゲロウ、アブラバチ、ある種のバーティシリウム菌が大嫌いなの。好きな色は名前から想像して桃色と思うだろうけど、黄色なの。うそと思うなら、黄色のポリエチレン・バットに水でも入れて畑においてみてよ。
*:牛乳原液500くらいに展着剤1の割合。たばこ吸い殻30本程度を200ccの水に投げておいた浸出液を3倍に薄めて噴霧しても殺虫効果があります。【July,1998】