ジャガイモ品種「さやか」(農林36号)(SAYAKA)

(1)来 歴
農水省北海道農試において、食用品種の育成を目標に昭和58年イギリス生まれの「Pentland Dell」(注(1))を母、アメリカ生まれの線虫抵抗性の「R392−50」を父として交配採種し、以後選抜を加えてきたものです。平成7年北海道の奨励品種になっています。
地方番号は「北海74号」、農林登録番号は「農林36号」です。品種登録は平成10年(1998年)。
(2)地上部特性
 萌芽期は「男爵薯」程度、開花期はやや遅い。枯凋期は「男爵薯」より約2週間遅い中生です。
茎長は「男爵薯」より15〜20cm高く、そう性はやや開張型です。
 葉は緑色で、小葉の大きさは中、粗密は中、葉縁が波打っています。
 花色は白で、花数は中、自然結果は少ない。
 ウイルス病株の発生率はやや多く、Yウイルスを接種した場合のえそ反応は弱い。
 多肥による黄変期の遅れや茎の徒長は、「農林1号」より少なく、増収効果は高い。また、密植により2Lを減少させ、L、Mを増加できます。
(3)地下部特性
塊茎の皮色は「男爵薯」より白く、肉色は「男爵薯」同様。表皮は滑らかで、目は浅くて少ない。いも着はやや密で、粒揃いはよい。いも数は少ないが、一個重はごく大きく、平均120g程度。収量は「男爵薯」に比べ1、2割多いが、澱粉価は同等ないし少し低いことが多い。
 中心空洞、褐色心腐、黒色心腐及び二次生長の発生は「男爵薯」より少ない。
 ジャガイモシストセンチュウに抵抗性であり、疫病抵抗性遺伝子R1R3をもっていますが、「マチルダ」のような圃場抵抗性はありません。
 そうか病、粉状そうか病、黒あざ病、青枯病に対する抵抗性もありません。
塊茎の休眠はやや長く、貯蔵性がよい。
(4)調理加工特性
収穫後のいもを光に曝した場合の緑化の進みは少なく、グリコアルカロイドの生成量も少ない。
 生いもの剥皮褐変と水煮放冷後の調理後黒変は「男爵薯」より少なく、煮くずれも少なく、加工歩留が高く、人件費(コスト)削減に役立つなど、調理特性に優れています。肉質は中で、スライスサラダ、煮物に向きますが、チップスやフライには不向きです。つまり、北海道産のものでは、1月を過ぎると甘みが強くなってしまいます。
(5)栽培上の注意
澱粉価の上昇がいもの肥大に比べやややや遅れるので、普通栽培では早期出荷には向きません。
 大きいいもになりやすいので、多肥・疎植を避け、5000株/10a以上の密植にします。
疫病抵抗性遺伝子(R1R3)をもっていますが、圃場抵抗性がなく、普通品種並みに罹病します。
ウイルス株の識別が難しいので、採種栽培にあたって注意する。
注(1):スコットランド作物研究所。長卵形で目が浅く大きなもの。皮は白、肉色はクリーム。白花で果実がよくつく。疫病抵抗性遺伝子R1R2R3を保有しています。なお、『R392-50』のほうはジャガイモシストセンチュウ抵抗性遺伝子H1を3重にもっています。


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左:「さやか」の白い花です。 右:「さやか」の塊茎2(北農試原図)

「さやか」
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左:下葉が葉巻病と紛らわしい。 右:葉の裏に出る褐色小斑点


ジャガイモ博物館 (4 品 種 )

表  グリコアルカロイド含有(PGA, mg/100g)
品 種PGA緑化しやすさ
さ や か 5.9微〜少
メークイン21.7
男 爵 薯12.4少〜中
ワセシロ 7.1
ニシユタカ6.6 少
 注)PGAはα−チャコニンとα−ソラニンの計。小原ら,1998から抜粋。
「ワセシロ」はクロロフィルが増加したわりにはPGA含有は増えていません。

 
表  「さやか」と「農林1号」の成績成績


   品種名
 
茎長

(cm)
枯凋期

(月日)
上いも重

(kg/10a)
 比

(%)
中いも
以上重
(kg/10a)
 比

(%)
澱粉価

(%)
平 均
一個重
 (g)

さやか
農林1号
50
60
 9.23
 9.末
 4,350
 4,360
 100
 100
4,231
4,119
 103
 100
15.1
16.3
 167
 128

さやか
農林1号
58
59
 9.13
 9.27
 4,074
 4,557
  89
 100
3,805
4,082
  93
 100
14.7
16.2
 112
  97

さやか
農林1号
62
68
 9.13
 9.22
 4,814
 47425
 102
 100
4,632
4,419
 105
 100
14.2
15.5
 135
 114

さやか
農林1号
48
54
 9.下
10.上
 3,725
 3,689
 101
 100
3,496
3,310
 136
 100
15.3
16.2
 113
  95
 平成4〜6年(元北農試(恵庭市、現ホクレンの地)は昭和63〜平成6年)の平均。
暇つぶしコラム(1988年、Hさんからの手紙)
司馬遼太郎の『街道をゆく 2 韓(から)のくに紀行』の中に「沙成可」(さやか)が出て来ます。 これは豊臣秀吉が朝鮮に出兵したときに、朝鮮側に降伏した侍大将の日本名を朝鮮漢字に移したものです。なおこの「沙成可」を先祖とする人(子孫)が4千人にもなっているそうです。

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