ジャガイモを栽培して、よく見ると、株ごとに高低があったり、隣の畑の同一品種と比べて葉の大きさや色が違っていたりします。このほとんどは環境変異と呼ばれるもので、与えた肥料の種類・量、催芽、齢(種いも導入先)、土壌条件などの違いによるものです。
この変異は、一時的なものです。そして「北海道産のものは花が早く咲く」とか「今年のメークインは丸い」などと言われたりします。この中から形の丸いものと、長いものを選んで、翌年(たとえば交互に)植えてみても(後代検定してみても)、全く区別がつかないことでしょう。しかしもっと個別によく観察していると、翌年も違いが判る(永続的な)遺伝変異を見つけることがあるかも知れません。
このふたつの事例から見当がつきますように、表現型は常に環境変異environmental variationと遺伝(的)変異genetic variationを併せて表現しています。そして、環境変異と遺伝変異を区別するには後代検定progeny testをしてみる必要があります。ジャガイモの種いも生産は栄養繁殖、つまりクローンclone生産なので、ソバの他家受精とかイネやコムギの自家受精とは違って、増やすのに交雑crossingが関与することがありません。このため、通常の栽培中に遺伝変異を見つける確率は高いほうではありません。特に、いもの数や大きさが変わったものは素人には難しいことです。遺伝的に変わっていなくてもジャガイモの場合ウイルス病でひどく減収することがあり、これに一度かかると、普通栽培では永遠に除去できません。このため、明治時代にジャガイモをよそから入れた人は、たくさん穫れた株を集め翌年の種いもに使っていました。
遺伝変異のうち、花の色、葉の形や大きさ、花弁数、ストロンの長さ、皮の色などの質的形質は素人にもよく判ります。ただし花の形など花房内の変化が一部キメラ状になっているものの塊茎を翌年植えても、その変化部分を継続保存できません。
遺伝変異は、自然界では長年月をかけて変化していますが、人工的にX線をかけて変えることも可能で、かって根釧農試(平成10年より北見農試)馬鈴しょ科で「紅丸」という皮の紅の品種から皮色の黄白な「根育16号」を育成したことがありました(昭和48年)。