ポテトエッセイ第19話
【写真:果実と種子】
全国どこかでたきどき『「男爵薯」に珍しく果実がなった』というのが新聞に載ります(例。平成2年7月10日毎日新聞岐阜版)。『『男爵薯』にトマトがなった』と持ち込まれ、中を切ってみたこともありますが、中に種子が入っていなかった。『親の意見とナスの花は、千に一つも無駄が無い』と言いますが、ナスと同じナス科に属するジャガイモではありますが、果実をつけることが選抜の対象ではありませんので、果実をつけない品種が多い(下の表参照)。コメ、ムギ、ソバ、トウモロコシなどでは子孫を残すため、或いは我々の目的のため実は種子でもあり重要です。
通常、ジャガイモは種子(タネ)ではなくて、イモを植えてイモを収穫しています。自分のエネルギーを燃やして、次代の芽をだし、茎葉をつくり、根を着くっていく、つまり各人が自らに養分を与えるカルチャーcultureの基本を成し遂げています。
イモから植えるのはクローンであって、途中から病気にかかったものなどは別として、全く同じ顔立ち(形や皮の色)、性格(熟期やでん粉含有率)のものができます。
コロンブスが西インド諸島などを発見した後、スペイン軍が南アメリカにも侵攻した。そのとき、よく食べているジャガイモを知り、本国に持ち帰ったことが推察されます。当時ヨーロッパのムギなどの一般植物は地上になった実を植えて次世代を育てていたので、地下になるジャガイモ(イモ)を植えてイモを得ることを知っていた者は少なく、めずらしい観葉植物と考えて、果実からタネを採って、タネを植えていた時期がありました。
花が散った後にできる果実(漿果、berry,seed ball)の中にある種子(タネ、これを真正種子True Potato Seeedと言います)を
植えてもイモtuber(塊茎)をとることができます。サツマイモでも、昭和40年台半ばからそ
の種子播き栽培が試みられていますが、収量は通常の8割ほどにとどまっていま
す。ジャガイモは他家受精作物でありまして、人間社会の家庭のように、同じ母
から顔や性格の違う子供が生まれます。通常の品種ではなった実(雑種第1代)
からいろいろ分離してきます。店頭に並べてみると、くずイモを混ぜて売ってい
ると思うでしょう。
特別なテクニックで分離しないようにホモ化しますと、なんとか栽培が可能
になります。
種子播き栽培の利点としては、
@ 種イモの節約になること。(真正種子の形はトマトの種子に似ているが重さは、千粒でも1gに満たない)
A ウイルスにかかっていることが少ないこと。
B 種子の運搬、貯蔵が容易なこと。
C 近年ミニポテトの需用が増えていますので、それに応えることも可能なこと。
などがあげられます。
しかし欠点も多いのです。
@ 家庭菜園などに植えている普通の品種になった果実から得た真正種子は、熟期、形、目の深さ、色などのバラツキが多く、趣味で楽しむのはいいが、販売するには市場性が劣ります。
A 通常のイモを植える場合に比べ、イモ数は多いのですが小粒で、収量は4,5割のことが多い。
B 種子から育てるため、細い茎が1本だけ弱々しく出てきます。その上。収穫できるまてに何か月もかかり、その管理に手間どります。賃金の高い日本には向きません。
@ また、広い面積を考えて実用化するには、大量の種子をとる方法の確立が必要です。 しかし、全く望みがないわけではなく、ペルーのリマにある国際いも類研究センター(CIP、Centro Internacional de la Papa)、アメリカ、中国、スリランカなどで親に向きそうな品種の開発などがすすめられつつあります。
多 少 |
品 種 |
無 |
男爵薯、メークイン、ニシユタカ、デジ マ、普賢丸、スノーデン、ワセシロ、シンシア、インカレッド、きたひめ、ア イユタカ |
稀〜中 |
キタアカリ、インカのめざめ、インカのひ とみ、インカパープル、シャドークイーン、トヨシロ、とうや、農林1号、さ やか、 ノースチップ、キタムラサキ、マチルダ、スノーマーチ、 |
多 |
ホッカイコガネ、コナフブキ |