ポテトエッセイ第41話

ジャガイモのビタミンC【ジャガイモ博物館】
 19世紀のイギリスで、ジャガイモの不作が続いた時、足がむくんだり、腱が縮んで黒くなったり、口が臭かったり、歯が抜けたりする人がたくさん出てきました、そして死ぬ人さえでました。その死人の心臓は白く、しわだらけであったそうです。
 ジャガイモを食べることができた人にはこの症状が全く見られななかったので、1846年にガロットという人がジャガイモの中に抗壊血病成分が含まれているのであろうと考え、ジャガイモにたくさん含まれているカリウムを抗壊血病成分である考えました。
 その後20世紀の初めになり、イギリスの細菌学者でペニシリンの発見者でもあるアレキサンダー・フレミングの先生にあたるライトは、体液の酸性化が壊血病の原因であるとの酸性体液説を提唱しました(アルカリ性食品の野菜や果物では、これを焼くとカリウムを含む灰を残す)。しかし、レモンの灰にはカリウムが少ないから、ライトのこの説は間違いだとするレパーの説(1925年)が出てきて、1920年代になって、ビタミンCの呼び名が生まれました。
 ジャガイモ中のビタミンCは、品種や貯蔵期間などで差があるのですが、イモ100g中に15ー40mgあります。つまり中ぐらいのベイクドポテト1個には、私どもが1日にとらなければならないとされている量の約3分の1に相当する20gが含まれています。
 ビタミンCは生野菜に多いと思われがちですが、これは必ずしも正しくないのです。生野菜はビタミンC含量が多くても、よい供給源とはいえないのです。パセリーを100g食べる者はいません。
 生のホウレンソウはジャガイモの約3倍のビタミンCを含んでいるため、3分ゆでても蒸したジャガイモより多くのビタミンCを含んでいます。しかし生野菜サラダとジャガイモのマッシユポテト1人前(共に120g)のビタミンCを比較すると、サラダ(キャベツ20g、キュウリ30g、トマト50g、レタス20g)のビタミンC量は23.9mg。これに対しマッシュポテトは27.6mgミリグラムで、勝っているのです。
 ビタミンCは、おもにジャガイモの葉の中でつくられ、土中のイモに移ったものです。
 ジャガイモの茎の中のビタミンC(アスコルビン酸)は、頭のほうに多く、下に向かって減っていきます。
 イモの中のものは、お母さんなどが買うまでの間に少しずつ減っていきます。おイモには一定期間は芽を出さないという休眠期間があります。この眠りが終わって芽が出始めると、そこにビタミンCもつくられるようになります。
 ジャガイモのビタミンCは、サツマイモに比べますと、貯蔵時間の経過につれて急に減少することがなく、七月に収穫したものを200日程度貯蔵しても35mgが20mgほどに低下するにすぎません。貯蔵温度が低いほどビタミンCの減りかたが少なく、また、ゆでても損失が少ない特徴があります。これは、葉ものは肉薄なためゆで汁にビタミンCが溶け出しやすいが、いもは塊のため損失が少ないためと思われます。また、ビタミンCは酸素がないと壊れません。野菜では、一般に茎や葉の表面積が大きいので酸素に触れやすく、ビタミンの効力が失われやすいのです。ジャガイモは皮つきのまま丸ごと電子レンジに入れたり、蒸したりすることが多く、野菜に比べ損失が少ないのです。
 北海道立衛生研究所の貯蔵経過をみた調査によりますと、ジャガイモ、ダイコン、ニンジンの残存率は、初めの1カ月でそれぞれ77、71、54%となるそうです。それから3カ月ぐらいは少しずつ減るだけで、冬の終わりの3,4月まで貯蔵すると、どれもおよそ3分の1に減っているそうです。
 ジャガイモを1.5cm角の立方体に切り、各10片(50g)を使って加熱方法の違いがビタミンC含量に与える影響をみた名大家政学部大羽和子教授(1988年)の実験を紹介しましょう。オープン加熱では、加熱時間が長くなるにつれてビタミンC量が減少しました。蒸し加熱では、ビタミンC含量が15分までは除々に減少しましたが、その後はあまり減少しません。ゆで加熱では短時間のうちにビタミンC量が激減し、その後は少しずつ減少し10分以降はほぼ一定の値となったそうです。ビタミンCの残りぐあいは、加熱時間の短い電子レンジでは96%と高く、蒸し加熱は67%、オープン加熱は62%、ゆでると28%ともっとも低くなります。
 表  ビタミンC含有率(mg/100g,生)北農試平成5年1月
品 種剥皮前剥皮後1昼夜
(濡れタオル覆い)
キタアカリ21.725.2
とうや17.822.1
メークイン15.317.1
男爵薯14.615.6
ホッカイコガネ12.913.9


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