ポテトエッセイ第53話

ポテトのミイラチューニョ(冷凍乾燥イモ、しばれいも、しみいも、すみいも)【ジャガイモ博物館】

【図の上:チューニョ、下左:山梨県鳴沢(なるさわ)村の凍み芋、右:北海道のしばれ芋】  アンデス山脈の長さは世界最大で、長さ9、000キロもあります。その中央アンデスのクスコなどの高地では、10月から3月までが雨期、4月から9月までが乾期となっています。チューニョは乾期につくられます。そのころの夜は氷点下5℃ほど、昼間は15℃ほどとなり、気温の較差が大きいのです。収穫したジャガイモを、自分の属するアイユウ(親族集団)の一番寒いところに夜間並べておいて凍結させ、昼間はこれを溶かします。これを一週間ほど繰り返えすとブヨブヨになり、水分が表面にでてきます。これらを裸足で踏みつけて水分を押し出し、皮を剥ぎます。その後さらに数日イモを放置して水分を完全に追い出します。こうして灰白色で、大きさ2,3センチの塊に仕上げます。ジャガイモにより近いものは生食用に回し、多少苦みのあるものがチューニョの原料に回されます。また作り方に差があるので白墨状のチューニョ・ブランコや色の黒いチューニョ・ニグロなど、いろいろできます。
 チューニョは、6,7月の乾期に高原でつくられ、次の収穫期まで保存されます。ふかしてチーズを添えたり、粉にしたり、また水に数時間つけて戻したのを、煮たり、蒸したり、細かく刻んでスープに入れたりしています。生イモとチューニョは、味も舌ざわりも全く違うので、ゆでたジャガイモと一緒に使われたり、ほとんど三食食べられているそうです。石臼で粉にしたものを入れた肉入りシチューは、4,000メートル前後の高地に住む人々の体を心底から暖ためるのでしょう。
 ケチュア族に伝わることわざに、
 「チューニョのないスープなんて、愛のない人生のようなもの」
(Stew without chuno is like without love)
と言うのがあます。しかし、ペルーの海岸の人々、特にヤング達はチューニョを
 「山間の貧しいインディオの食べ物」
と馬鹿にする傾向にあるそうです。値段は生イモよりかなり高価な割に、不格好だからでしょうか。
 これに類する凍結乾燥は、北海道の十勝(しばれいも)や、山梨村(しみいも)でみることができます。このイモのミイラとも呼ぶべきチューニョの成分は、糖分76.5%、蛋白質8.5%、脂肪0.5%ほどです。チューニョは長期の保存に耐え、持ち運びに便利であり、かってはインカの兵士の貴重な食糧であり、インカ帝国の滅亡後はヨーロッパとの交易品としても使われたものです。
(注 チューニョに使われるジャガイモ類としては、耐霜性の三倍体栽培種ソラヌム・ジュゼプクズキー種とか五倍体のソラヌム・クルチロブム種などがあります)。
 ヨーロッパ人が始めてこのチューニョを見たのは、1537年のことでした。ゴンサロ・ヒメネス・デ・コサダの率いる探検隊がインディオの住むソロコトを占領したとき、インディオが逃げ去った跡に残っていた不思議な食べ物と出会ったのでした。

 私どもが、と言っても冬凍結を繰り返す北海道に住むような人ですが、これに類する乾燥ジャガイモ(しばれいも、しみいも、すみいも)を自然を活用してつくるには、次のようにするとよいでしょう。
厳寒期よりも日中プラスの日があるようになってから、すだれ、むしろの上、夏蠅の侵入を防ぐ防虫網の中などの上にどろを落としたジャガイモを並べておきます。凍結・融解・乾燥を繰り返し、皮の破けたところから灰白色の肉がみえるようになっていきます。きれいなのはそのまま保存し、それがいやなら、春になったら皮を剥いて樽に入れ、水を変えて灰汁抜きを数回繰り返します。水が赤褐色から透明へと変わったところで取り上げて、天日に当てて乾燥すればでき上がり。
後日、臼でついたり、石臼でひいたりして粉末にします。これを団子などにして食べます。昔南米ポトスの鉱山の労働者は、チューニョをほとんど主食のように食べさせられましたが、それを偲んでもよし、グルメ料理の素材へと変えてもよし。あなたは、どちらを選びますか。
追記:長野県南部の山里では冷涼であり天保(1830-44)のころジャガイモは重要な食べ物であった。刻んでごはんに入れたり、蒸して皮をむき、すり鉢ですって餅にしたり、また皮つきのまま塩水で煮た後乾かして保存食にしていたと言います。長く保存するために細かく刻んで乾燥させてから、天井裏に上げておいたりしていた。大正時代に(1912-26)この乾燥切り干しジャガイモが発見されたことがありました。
 上の写真には、さいたま市にお住まいの、柳 淳夫さん提供の『凍みいも』も加えました。黒茶褐色のものは山梨県鳴沢村で見られるものとか。このつくり方:冬、鳴沢菜を収穫したあとの畑を平らにして踏みしめたあとに藁(わら)をしいて小振りのジャガイモを平らに並べる。ジャガイモが凍った後の日中にござを掛けて足で踏み込む。こうして水分を除いていきます。融雪を持ってこの芋を取りだして天日で干して乾かすと写真のようになります。原料芋の関係で、北海道のものにくらべやや比重が軽い。これを食べるには、予定の3〜5日前から水に浸けておいて戻してやる必要があります。とりあえず食べるには戻した後、凍み芋がかぶるくらいの水を入れて30分くらい煮てやるといい。糊っぽいもちもちしたやや甘い非常食になります。食べてみたい方は民宿『ともゑ』(電話0555-85-2047)まで出かけてみてはいかが

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