ジャガイモの入ったポリ袋にリンゴ入れて、少し空気が出入りできるようにして2〜10度の所に置いたところ、ジャガイモの萌芽を抑制したというような話をときどき聞かされます(道拓殖短大石村教授、道新昭和59年2月24日家庭欄ほか)。
この効果はリンゴの発生しているエチレンによります。リンゴの代わりにバナナやミカンでも同様の効果があります。
リンゴやミカンを箱に入れたままにしておくと、非常に早く熟し、早く腐ってしまうため、昔から「果実の成熟あるいは腐敗は空気伝染する」と言われてきました。
ジャガイモのことをフランスなどでは「土中のリンゴ」(ポム・ドゥ・テール)と呼んでいますが、ジャガイモとリンゴを一緒に貯蔵するとリンゴの出す植物ホルモンでジャガイモの芽の出が押さえられ、無駄な栄養分の損失が少なくなり、貯蔵性が高まるとは、面白い関係にあると言えます。
ポリのごみ袋の腐れが意外と早く進むことも経験したことがありませんか。このように、エチレンは野菜や果物の成熟、老化を促進します。これを防ぎ、野菜の鮮度を保つために、最近野菜自身が発生するエチレンガスの吸収をねらった包装用器や袋(例えば、宇都宮市でとれる大谷石と言う緑色凝灰岩を使った「愛菜果」)を使っているところもあります。
このホルモンは、昔の街路のガス灯に使われた無色のエチレン(H2C=CH2)と同じものです。重合しやすく、袋などでよく知られているポリエチレンにもなります。植物ホルモンには、オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、アブシジン酸などいろいろありますが、エチレンは、唯一のガス態の植物ホルモンで、通常植物の成熟・老化を促進します。
昆虫の飛来にあったり、植物の生育中に毎日軽く触れたり、音楽をかけて空気を振動させたりすると、エチレンの分泌が活発になり、丈は低くなりますが、丈夫に育ち、倒伏が減ることも知られています。
エチレンが萌芽抑制効果をもつことを発見したのは、米国のElmer(エルマー)で、ジャガイモ塊茎を成熟したりんごやももの果実といっしょに貯蔵しておいてわかった。(1930年代の初めのこと)
ジャガイモに外部から与えるエチレンの効果は、処理期間で差があるようです。
つまり短期間処理では、ジャガイモの休眠を覚ます効果があります(プラット1969)。また、炭酸ガス濃度が高いとエチレンの働きが鈍くなります。エチレンは常温では気体で、植物の生長を抑制するには0.1〜10ppm存在すればいい。
また、萌芽中のいもを長い間エチレンを含む大気中におきますと、芽の付け根などに芽いも(小いも)がつくようになったりします(キャッチボールら1969)。
ジャガイモ自体もエチレンを発生します。その発生量は休眠中は微量ですが萌芽し始めると内生オーキシンの増加により、約10倍にもなり、特に温度が高いほど多くなることが知られています(北大農岡沢1974)。
ジャガイモと一緒にリンゴを置いて萌芽を抑制する方法は、おすすめできません。
それは、エチレン濃度を間違うと逆効果があり、リンゴが高価なのでジャガイモを早めに使い切るほうがよく、また、ジャガイモ塊茎自身に休眠があり、一定の期間はエチレンなど必要としないものなのです。つまり「男爵薯」に早くからリンゴを使っても全く効果がでません。さらに、冷蔵庫では、外の野菜や果物も入っていますので、それらの老化をかえって早めてしまいます。だからと言って密閉すると、ジャガイモ自体の呼吸の妨げとなり、別の生理障害を引き起こすこともあります。リンゴの品種によっても差があります。「ふじ」やその無袋栽培した「サンふじ」は期待できません。逆に「ゴールデンディリシャス」の実生から育成した「王林」とか「ゴールデンディリシャス」と「紅玉」の子供の「ジョナゴールド」はエチレンを少なからず出します。
なお、実用的にジャガイモの芽の出を抑えるには、「種無しブドウ」つくりで知られるジベレリンと反対の働きをする生長抑制物質が役立ちます。つまり、ジャガイモの茎葉黄変期の2〜3週間前(開花終わりころ)にマレイン酸ヒドラジト液剤(39%、商品名エルノー。【わずかですが、製品中に遊離ヒドラジンが増えるため、2003年回収☆】。試した人はいないでしょうが、散布液を誤飲しても安全な普通物。昔のMH−30とは別)を100倍に溶かして散布するといい☆。
これで萌芽を完全に抑制できませんが、芽がどんどん長く伸びることだけは無くできます。しかし当然のことながら芽が伸びないのですから、種いもには使えなくなりますので、食用として売っているものを種子用に回わすのはやめましょう。
平成26年3月にエチレンが特定農薬に指定されました。
エチレンはかすかに甘い臭気のある無色の気体ですが、ジャガイモ自体の外、りんご、ネクタリン、トマトなどの多くの作物に含まれているので、私どもは通常の食生活でこれらから知らずに摂取しています。ジャガイモの芽を伸びないようにするための実用化関連試験などをクリアして安全性が確認されました。ポテトチップ原料などに使用すると、北海道産の場合休眠が明けてから(芽の長さが1mmを越えてから)翌年の7月ころまで保管可能となります。そのやり方は8℃に保管し、エチレンガスを空気で希釈し、間欠的に噴霧し4〜20ppmの濃度を保つものです。
エチレンガスの生産と影響
品 目 | エチレン産出率 | エチレン感受性 | エチレンへの反応 |
じゃがいも | VL | M | 萌芽抑制 |
りんご | VH | H | やけど |
なす | L | M〜H | 褐色斑点 |
トマト | M | H | 衰退 |
たまねぎ | VL | L | 衰退 |
アスパラガス | VL | M | 硬化 |
ブロッコリー | VL | H | 黄化 |
にんじん | VL | L | 苦味 |
メロン | VL | M | 衰退 |
オレンジ | VL | M | 萌芽 |
ぶどう | VL | L | かび |
青果物は、収穫後も自分の持っている養分を消耗して呼吸を続けています。この呼吸作用が激しいほど鮮度や味が落ちてしまいます。そこで従来の低温管理に加えて庫内の酸素、炭酸ガスの濃度をコントロールすることにより果物やジャガイモの呼吸作用を最少限に押さえることができます。このようにして、収穫時に近い高品質をより長期間維持することが可能です。酸素や炭酸ガスが貯蔵物に適した濃度にコントロールされている貯蔵庫をCA貯蔵と言います。ここで、CAとはControlled Atmosphereの頭文字。
ホクレンでは、石狩湾新港にある石狩野菜センターに『CA貯蔵庫』を設け、北海道十勝地区の「メークイン」(糖度が高まる効果が顕著) 、羊蹄山周辺・美瑛方面の「キタアカリ」、 羊蹄山周辺・北見産の「男爵薯」、そして数量限定の十勝幕別産の「インカのめざめ」などを取り扱っています。