(1)来 歴
ジャガイモシストセンチュウおよび疫病抵抗性を有する食用品種育成を目標に、疫病圃場抵抗性で多収性の近縁種系統「S.tuberosum ssp.andigena(W553-4)」を母、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性の「R392-50」を父として、昭和59年に北海道立根釧農業試験場において人工交配し、以降選抜を重ね、平成9年(1997)北海道の奨励品種に決まったものです。2023年北海道の優良品種から削除されました。品種名は育成地島松に近い恵庭(現在は島松は恵庭市)からとっています。
地方番号は「根育29号」。「ばれいしょ 農林38号」。
品種の名前は、花がやや大きめで美しいことと、育成地からパソコン通信の公募で選ばれたものです。
(2)地上部特性
そう性(草型)はやや開張、茎長は「男爵薯」より長い。初期生育はやや速い。
小葉の大きさは「男爵薯」より小さい“中”に属します。
花数は多く、花の大きさは大きい。花色は赤紫系です。花粉量はやや多いが、自然結果は稀です。
枯凋期は「農林1号」程度の中晩生です。
(3)地下部特性
いもの形ば“偏球形”で、皮色は淡赤ですが、水煮後わかりにくくなります。表皮の粗滑は中です。目の深浅は「男爵薯」並に深い。肉色は淡黄です。
休眠期間は「農林1号」並で、やや短い。
早期肥大生はやや遅い。上いも重は「男爵薯」はもちろん「農林1号」並以上ですが、小さいので中以上いも重では「男爵薯」より多いが「農林1号」より少ない。
上いも数は「男爵薯」や「農林1号」よりかなり多い。上いも平均一個重は「男爵薯」より小さい。
でん粉価は「男爵薯」並です。褐色心腐および中心空洞は無い。二次生長は少ないが、「男爵薯」よりやや多い。
葉巻病抵抗性およびYモザイク病抵抗性は「男爵署」並に弱い。
疫病圃場抵抗性はごく強い、疫病による塊茎腐敗抵抗性もやや強い。そうか病および粉状そうか病抵抗性は「男爵薯」並の“弱”です。ジャガイモシストセンチュウ抵抗性遺伝子型はHlと推定されます。
(4)調理・加工特性
調理後の肉質は「男爵薯」より粉質度が弱く、「農林1号」に近い。(「男爵薯」と「メークイン」の中間)
調理後黒変の程度は「男爵薯」より多く、「農林l号」より少ない。煮くずれの程度は「男爵薯」より少なく「農林1号」並です。舌ざわりは滑らかです。チップ、フライには適さない。
用途は煮物、サラダ、肉ジャガ、あるいは赤皮で小粒の特徴を生かした皮つきベークドポテトなどに使える調理用です。
(5)特記すべき特徴
早晩性は「男爵薯」より遅く、「農林1号」並の中晩生に属し、上いも重は「男爵薯」より多く、「農林1号」並に多収です。
「マチルダ」同様、重要病害の疫病に圃場抵抗性があり、無防除栽培においても茎葉の罹病はわずかで、収量やでん粉価の低下は少ない。また、「マチルダ」とは異なり、ジャガイモシストセンチュウにも抵抗性があります。
減農薬あるいは無農薬栽培を容易に行うことができます。疫病無防除でも、これまでのどの品種より、澱粉価、ビタミンCなどの低下が少なく、疫病が原因の腐敗が少ないなど、品質の低下が少ないので、学校農園や家庭菜園につくってみたり、また、花が大きく、長く咲いているので、街づくりなどの景観作物としても期待できましょう。
(6)栽培上の注意
1)疫病、ジャガイモシストセンチュウ以外の病害虫には特に強いものではないので、通常の防除が必要です。
2)塊茎形成および肥大が遅いので、浴光催芽、早植えなど初期生育の確保に努めるのがよい。
3)やせた土地での栽培は避け、また、塊茎が小さいので密植を避けるほうがよい。
4)赤皮のため、収穫後緑化したものの識別が難しいので、遮光シートで覆うなどの配慮が要ります。
5)休眠が短いので、低温貯蔵に努めること。しかし低温に過ぎると肉色が暗灰色になりやすい。肉が変色しても萌芽には支障がない。
6)ストロン離れが悪い。
表 疫病無防除が塊茎成分に与える影響
品 種 | 処 理 | 澱 粉 価 (%) | ビタミンC (mg/100g) |
花 標 津 | 防 除 | 15.1 | 17.3 | 無防除 | 14.8 | 17.2 |
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農林1号 | 防 除 | 17.7 | 16.4 | 無防除 | 14.2 | 13.6 |