マイクロチユーバー(MT)とは、茎頂(点)培養などで得られた無病植物体から培養容器内に生産された塊茎をいいます。器内増殖塊茎のこと。遺伝的には普通の塊茎と全く同じものです。1g程度など小さなものが販売されています。
1. マイクロチユーバー(MT)利用の利点
(1)種いもの緊急増殖に役立つことがある。
(上手くやれば増殖機関を1年ほど短縮できるので、原原種生産などに役立ちます。しかし、参考までに、これまでの例で見ますと、北海道の奨励品種になって5年後の普及面積は、電力を使って増やすMTでなく挿し木、発根移植などで増やした『コナフブキ』『トヨシロ』でそれぞれ6,052ha、4,167haにもなったのに対し、MTを活用した『さやか』では229haにとどまったにすぎなかった。
(2)始めて畑に植えた年はウイルスの罹病が少ない。
(マイクロチューバーの生産も植物防疫官のチェックが必要であり、原種圃も防疫検査を受けなければならないことになっています)
(3)種いも生産適地でないところで、どうしてもやりたいときに生産が可能。
2. マイクロチューバーは何故だめなのか
農業技術の評価は、それが品質ないしは収量の安定・向上に役立つのか、或いはコスト低下、省力につながるのかにあります。マイクロチューバーはどちらから見ても不合格と言えましょう。
原原種の生産は別として、一般農家などの栽培にはあまりおすすめできません。その理由はつぎのようです。
(1)マイクロチユーバーの種いも代が極端に高く、10a当たり20〜30万円と言われています。
(2)ジャガイモは栄養体であり、生育の初期は種いもの栄養分に頼って生育するため、種いもが小さいほど収量が低下する傾向にあります。
(3)ジャガイモの目の数は、芋の重さを増すにつれて増加しますので、マイクロチューバーの目数が極端に少ない。このため、茎数が1,2本と極端に少なく、いも数や収量が劣ってきます。
その対応策として、株間10〜25cmの密植とか2粒播きを行う必要がありますが、その分さらに種子代(コスト)が増えます。(普通、種いも生産者の利益は数万円でしかありませんので、スタートから赤字となります。)
(4)いもが小さいため、砕土、覆土の影響をうけやすく、萌芽が不揃いになります。
つまり、出芽しないもの(欠株)や遅れて出てくるものの比率が高く、生育にバラツキが多い。
このため、耕起整地、雑草対策、などに周到な管理と手間が必要になります。
(5)種いもが軽い分、当然栄養分総量が少なくなります。出芽後の生育は、弱々しく、しかも茎葉の繁筏が普通の種いもを使ったものに比べて遅れるので、除草回数が増え手間がかかります。(未熟で生まれた子供は、保育器の中での期間が長いのと同じです)
(6)普通の塊茎を植えたものに比べ、開花、枯凋が遅れ、生育期間が長くなりますので、その間のアブラムシや疫病の防除などにも余分な手間と費用がかさんできます。
(7)採種栽培では、減収を嫌って密植・多肥にし過ぎると、塊茎単位で無いことと相まって、ウイルス株等の抜き取りを困難にします。
(8)MTは元来休眠に入って間もないものが親から離されているため、休眠の明けていないものが混ざる可能性もあります。(その場合欠株、生育のバラツキを生じます)
(9)株当たりいも数が少なく、生産されるいもサイズにバラツキが大きく、規格内(正品)歩留まりが低い。
(10)収量性(減収率)に品種間差があるので、新品種の場合上手にやれるか見当がつかないし、違いのすでに判っているのは、緊急増殖の必要のないものなのです。
種いもが小さくなるほど減収します
<<5gの種いもでも収量が落ちます>>
通常種いもの重さが35g以下になると、収量が低下してきます。大きいほうがたくさん獲れますが、種いも代が嵩みますので、40〜60gの切片を使うことが多い。小粒ないもを使ったことによる収量減は、種いもを増やして(密植により)補うことが多い。
種いもの大きさ | 収量比 |
5g | 70% |
38 | 88 |
75 | 100 |
種いもの大きさ | 収量比 |
14.2g | 73 |
28.4 | 89 |
42.5 | 97 |
56.7 | 100 |
このように、種いも重量の低下とともに。ポテンシャルの低下より逃れることができず、結果として収量の低下をもたらすことになります。
【 カットの写真は真正種子から育ったジャガイモ】 ジャガイモの花のあとになる漿果(実)の中の真正種子(True Potato Seeds。1粒は約1mg)はその行き着く先のようなものであり、その生育はMTによく似ていて、茎は1本しか出てこなく、初期の生育が劣り、生育期間が長い割には収量は劣ります。