ジャガイモの改良の世界では、人間では考えられないようなことが幾つもやられています。
1例をあげますと、「とうや」と言う品種の母R392-50は、「ベニアカリ」の父です。同じように、「トヨアカリ」の母ツニカは「キタアカリ」の父でした。人間にそんなことがあってよいのでしょうか?
明治の世から栽培されてきて、競争馬なら「ハイセーコー」クラスでしかも息の長い「男爵薯」。当然父や母として長い間使われてきたと思われる出しょう。その直接の子供に「農林1号」、「キタアカリ」があり、長崎県で育成した「メイホウ」、「デジマ」にその子の「ニシユタカ」など、ほとんどすべて「男爵薯」の遺伝子をもらい受けていますが、すべて「男爵薯」を雌として活用したファミリーです。父になったのはひとつもありません。
「男爵薯」ファミリーはこのように賑やかですが、「メークイン」は子や孫は極ごく少なく寂しい皇后です。ジャガイモの世界は競馬の世界以上に、血統がでてきているのに驚かされます。父になったり、母になったりするジャガイモがあるのに、男を連想するほどの「男爵薯」は何故母にしかなれなく、母らしい「メークイン」は子無しなのでしょうか?
そのわけは、「メークイン」は形が長すぎ、PGA(ポテトグリコアルカロイド)含有が高く、生育中に倒れやすく、疫病(かび)に罹病しやすいなど、ひ弱だから、良い子供を期待できなかったし、名前が男らしい「男爵薯」では花から花粉を飛ばしてくれなかったので、これまで両品種とも、花粉をもらう母の役しかできなかったためです。
しかし、最近北海道のホクレンでは「男爵薯」の体細胞をバラバラにし、そのひとつひとつから新しい「変わり男爵薯」を育ててみました。その中に「ホワイトバロン」と言う少し良い(稔性の)花粉を出すものを見つけましたので、これが父になる日が来るかも知れません。この「ホワイトバロン」は「男爵薯」の欠点である目の深さがとれた上、皮を剥いて水に漬けずに放置しても肉が変色し難いという素晴らしい特性も身につけていました。
多くの方が期待しているのは、「メークイン」(母)と「男爵薯」(父)の間で子供をつくり、両者の良いところをもったものができないか、と言うことかも知れません。しかし、どちらもまともな花粉をつくらない雄性不稔なので、この組み合わせはもちろん、父と母を逆にしても成功しません。ジャガイモには雄性不稔つまり、ダメ男君の比率が高い。これは人間社会に似ていませんか。北海道の冷夏ではイネが実を結ばないことがあります。この原因は、開花期の雄しべが低温とか高温に会うと生殖機能を失って、花粉の発育が阻害されてしまうわけですが、雌しべは低温下でも、アフリカやカンボジアの高温下でも影響を受けにくい。
札幌市中の島「穀物祭」