ジャガイモの出てくる 映 画  第18集

浅間和夫

181.『道中の点検』(原題: TROVERNA NA DOROGAKH)
1971年、ソ連。監督アレクセイ・ゲルマン。
 独軍占領下でのあるパルチザン小隊の活動を背景にそこでうずまく友情、信頼、裏切り、反目を描く。
 1942年冬の第二次大戦真っ只中、ドイツ軍がソ連領内において、畑の下から、膨大なジャガイモを掘り出し、灯油をかけるシーンに始まる。元赤軍伍長でドイツ軍に寝返っていたラザレフ(ウラジミール・ザマンスキー)が、井戸で水を組んで飲もうとしていると、後ろからパルチザンの兵士に咎められ、自ら投降する形で捕まる。そしてドイツ軍に寝返って働いていたが、もう一度パルチザンに戻り、戦いたいと告げる。そのパルチザンは、ロコトコフ隊長(ローラン・ブイコフ)の下独軍占領下のロシア北西部で、ナチスの懲罰隊に包囲されながら困難な活動を続けていた。
 一度祖国を裏切った男を理解しようとする隊長、銃殺を主張する少佐、敵意を持った隊員たちが周りにいた。独軍を襲い食糧調達をするラザレフ、ソローミン、エロフェイチの三人。ソローミンが敵の弾丸に倒れ、その疑惑がラザレフに向けられる。耐えられなくなったラザレフは自殺未遂を起こした。
 だが、命をとりとめ、ロコトコフ隊長は、彼に身の潔白を立てるチャンスを与えられた。それは、ドイツ兵に変装して駅に潜入し、食糧を満載した軍用列車を奪うものだった。亡きソローミンの恋人インガを含む四人が乗り込む。監視台に上り敵の注意を引くラザレフ。その間にドイツ兵に気づかれずに、引込み線の貨車の合間を縫って食糧列車まで一気に辿りつこうとする三人。ラザレフは、最後に飛び乗る計画であった。貨車がいよいよ引込線を離れ、監視台からラザレフも飛び移ろうとした瞬間、計略が発覚し、サイレンが鳴り響いた。激しい交戦の末、走り出す貨物列車を見届けたかのように、線路上に倒れる。彼方に走り去る列車、広がる雪原、画面に配置される人々のカットが美しい。アレクセイ・ゲルマン監督のデビュー作であったが、ストーリー、スピード感、画面の美しさなどで優れた作品とされている。
エピローグは、戦争が終わり、パルチザンの兵士が凱旋するシーンへ続いた。 <2018.12.26>

182.『カンナさん大成功です!』
2008年、邦画。監督井上晃一 。
原作は、『Kiss』(講談社)に連載の鈴木由美子の大人気漫画作品であり、韓国映画(Mi-nyeo-neun Gwae-ro-wo、200 Pounds Beauty)にもなった。
 主人公は、神無月 カンナ(山田優)。以下、ウィクペディアによると、福島県出身の22歳。亀戸大学の学食で働いていた。「一度見たら夢に出そうなブス」だった事から誰からも手酷い扱いを受けており、かつては、「カバゴジラ」「カンナ菌」「ブタ」「カバ」「ヒバゴン」などのあだ名をつけられる程のブスで、更にアンダー130のブラジャーを着用する程のデブだった事から、周囲から酷いいじめに遭っていた。
 道端でジャガイモをぶちまけ、周囲に白眼視されている時に唯一優しく接してくれた蓮台寺 浩介(れんだいじ)浩介がいた。亀戸大学の男子学生であり、校内では女子が群がる程の美形で、人を見かけで判断しない、動物に優しい等、性格も良い。カンナの作る学食のファンだった。この浩介に好意を持ち、数百万円をかけて美容整形した。整形箇所は胸、鼻、腹、ワキ・ビキニラインの永久脱毛等。全身整形の大手術を受けて誰もが振り向くスーパー美人となった。
 仕事も恋も親友も手に入れ、最高にハッピーな日々を送られるようになったカンナだった。現住所は郵便物によると、「東京都 部須野市」。学食での勤務経験からか料理が得意。貧乏性と言えるほどの倹約家。美女になってもブスの頃の名残で軽い被害妄想やネガティブさが顔を出し、美人らしい行動が取れなかったり、美人であることを意識、勘違いしすぎて、おかしな行動を取ったりすることも多い。いびきと寝相の悪さは変わらない。
 そんな、ブスと美人の考え方や周囲の扱いの違いを描きながら、カンナと浩介を軸に展開する恋愛ギャグ漫画。さらに、これまでひた隠しにしてきた全身整形の過去をバラそうとする人物が彼女の前に現れる・・・。 <2018.12.27>

183.『スイートリトルライズ』
2010年、邦画。監督:矢崎仁司
『スイートリトルライズ』は、江國香織による恋愛小説。幻冬舎の文学小冊子『星星峡』に1998年2月号(創刊号)から2000年1月号まで12回にわたって連載されたのち、加筆・修正を加え、2004年に単行本として幻冬舎から刊行された。2006年には幻冬舎文庫より文庫化されていた。
 結婚して3年のテディベア作家岩本瑠璃子(中谷美紀)とIT企業勤めの岩本聡(大森南朋)夫婦。(写真)
傍から見ると理想的な夫婦であるが、セックスレスで、心はすれ違う日々だった。夫は嘘はつけない素直な人であり、喧嘩をすることはない。しかし、夫を愛する妻が話しかけても生返事が多く、部屋に鍵を掛けてゲームに浸り、用事があるときは携帯電話で呼び出さなければならない。
ある日、打合わせに来ていた編集者が、ふと漏らす。
「ジャガイモの芽って毒があるらしいですよ。」
「でも、理想の夫婦すぎて、毒なんか必要ないですよね。」
 編集の子が帰ると瑠璃子はじっと、ジャガイモの芽を見つめた。昔苦手な家庭科の授業で習ったことで、忘れられないことが一つだけあった。ジャガイモに毒があり、その名はソラニンだということ。夫の郷里の帯広から毎年ダンボールが送られてきていた。
傍目には幸せそうな二人であり、不幸というわけでもないのだけれども、淋しがりやの妻は「この家には恋が足りないと思うの」と孤独を語り、ジャガイモの芽を集めて佃煮にして夫に食べさせようと妄想する。
 そんなある日、瑠璃子の個展を訪れて非売品のテディベアを自分の恋人のために譲って欲しいとねだる青年春夫(小林十市)と近くのレンタルビデオ屋で再会する。春夫に誘われて瑠璃子はすぐさま不倫の関係を持ってしまう。同じ頃、大学のダイビングサークル(原作では、スキー部)のOB会に顔を出した聡は、後輩の三浦(池脇千鶴)から積極的にアプローチされて、やはり不倫の関係になる。心の距離が開いた夫婦、それぞれの秘密の恋。 二人一緒に過ごす日々の中で、小さな優しい嘘(little lies)が積み重ねられていく…。 映画のキャッチコピーは「人は守りたいものに嘘をつくの。あるいは守ろうとするものに。」 <2018.12.28>

184.『ワーテルロー』(原題: Waterloo)
1970年、イタリア・ソ連。監督:セルゲイ・ボンダルチュク。
 1815年6月に行われたワーテルローの戦いを主題にした映画。フランス皇帝ナポレオンとイギリス軍司令官ウェリントン公の戦いを描く。
ナポレオン(ロッド・スタイガー)がエルバ島から脱出し、南仏に上陸し、パリに向かった。パリのルイ十八世(オーソン・ウェルズ)は、ネイ将軍(ダン・オハーリー)を派遣し、進撃を阻止しようとしたが、兵隊はナポレオンを見ると銃を投げだす始末であった。
 しかし、英、仏、オーストリア、プロシャの各国は、今度こそナポレオンを徹底的に駆逐しようと、軍備を強化していた。英国のウェリントン卿(クリストファー・プラマー)軍、プロシャ軍等は既にベルギーのワーテルローへ移動していた。これを知ったナポレオンも軍を率いてワーテルローに向った。
1815年6月15日ナポレオン軍、連合側、合わせて約15万の軍勢がワーテルローに結集し、その南8マイルの地点で、両雄の生涯をかけの大激戦が開始されたのである。ここでウェリントン軍はネイ将軍率いる軍隊を破り、士気は上がった。だが、6月17日朝、ウェリントンは作戦変更の通知を受けた。南東のリグヌでプロシャ軍が大敗したというのだ。それで彼の軍は北方に移動し、ワーテルローに向った。
 ここで対峙したのは、ウェリントン軍総勢67万人、ナポレオン軍68万人。ウェリントン軍の半分は訓練されていない兵士だった。戦いの前にナポレオンは「ウェリントンは無能な将軍で軍隊もなってないから、朝メシ前の戦いだ」と言った。が、6月18日午前11時に砲火の口火が切られてからは昼メシも危くなった。お互の要塞の攻撃、歩兵戦、騎兵戦と続いた。午後6時になっても決着はつかなかった。双方の犠牲者は果てしなかった。午後7時ナポレオンは最後の手をうって総攻撃をかけ、対応してウェリントンもむかえ撃った。戦いは10時間余に及び、仏軍は敗退したが、この戦いで両軍合わせて5万人以上の死者が出たと言われている。ナポレオンは、プロシャ軍に、捕まりそうになったが、パリに逃亡、その後セント・ヘレナ島に流された。ウェリントンは言った「この戦いが終り、世界の平和が来た。これは、歴史上のどんな戦いよりも重要な戦いであった」と。
 映画作成の構想に約9年、映画の完成までに2年を費やし、3,000万ドル(108億円)の巨費が投じられ、ソ連陸軍全面協力も得られ、CG無し、『戦争と平和』の俯瞰的画面よりも低い位置から撮影により迫力ある激写となり、ナポレオンからみの映画として最高に位置するものとなった。肝心のジャガイモのシーンが無いのにここに取り上げた理由は、ワーテルローの戦いという局地戦であったため、撮影に際しウクライナの広大なジャガイモ畑を大がかりに整地し直して、戦場シーンを作ったと判ったためであり御理解いただきたい。 <2018.12.29>

185.『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジ ャンヌ・ディエルマン』(原題:Jeanne Dielman, 23 quai du Commerce, 1080 Bruxelles )
1975年、ベルギー、フランス映画。監督のシャンタル・アケルマン。
シャンタル・アケルマン(Chantal Akerman、1950~ 2015年)は、ベルギー出身の映画監督、脚本家、女優。この映画が代表作。
 女性主人公の3日間の生活が描かれている。未亡人のジャンヌ・ディエルマン(デルフィーヌ・セイリグ)は、思春期の息子(ヤン・デコルテ)と共に、ブリュッセルのアパートメントで暮らしている。 彼女は息子のための家事の支度をこなし、隣人の赤ん坊の子守りをして、街へ買い物に出かける。主婦業は気楽な生活ではない。平凡なサラリーマンのように、多忙で、ルーチンな生活だ。全体を通じ、写真のジャガイモの皮を剥くシーンのように、カメラは低い位置に固定され、正面を向いて均整の取れた構図で撮影している。監督は幼いころの母の台所仕事・身振りをよく見ていて撮影に生かしたのだ。一般の映画のようなカメラワークとか会話はほとんどない。息子相手ですら宿題を教える以外の会話はないので英語字幕を追うのは楽である。そして彼女は生きるための日銭を稼がねばならないため、息子が学校へ通っている午後に、彼女は自宅で売春もしている。
 しかし、規則正しかったが退屈な彼女の生活は、少しずつ秩序を失っていく・・・。
 3日目、彼女はベッド上の男性客を鋏で刺殺することになる。ラスト10分の苦悶と解放感が入り混じった主人公の神妙な趣きが観る人を圧倒することになる。
<2018.12.30>

186.『男はつらいよ 寅次郎と殿様』
 この第19作は、渥美清がまだまだ若いころのものであり、彼が『心の師』と尊敬していたアラカンさんこと嵐寛寿郎と共演を果たしたものである。
 端午の節句を迎えた柴又では、博が大きな本物の鯉のぼりを買ってきてとらやの庭でみんなで揚げている。寅次郎の甥の満男は大喜び。妹さくらの足元では犬が遊んでいる。この犬は源さんが拾ってきたものでトラと名前をつけていた。そこへ寅次郎が帰ってくる。台所では、妹のさくらが新ジャガらしき芋の煮っ転がしの味見をして、
 さくら「もういいじゃない」、おばちゃん「そうかい」。さくらの「さあ、食べましょう」の一声で、満男がいち早く芋の煮っ転がしを食べる。
 この時、庭でさくらの夫の博が大声で、「トラ!」と。反応する寅「はい…」。博続けて「なんだこんなところに糞してぇ!!」。寅、つい自分の股を見る。
落ち着くものの、社長が現れる、「トラ!いるかい?トラァ!魚の頭持ってきてやったぞぉ!」寅、猛然と台所へ行く、「テメイまで、俺のことバカにしあがるのか」タコ社長なぜ寅が怒っているのか分からないまま、寅が投げまくるジャガイモや野菜を鍋の蓋を盾にして受ける。  そんなことから、寅次郎はすぐさま旅に出てしまう。伊予大洲市で柴又の団子屋を知っているという女性(真野響子)と出会い、翌日は、大洲城の近くで、偶然に知り合った老人(嵐寛寿郎)の家に招待される。実は老人の正体は大洲の殿様の子孫・藤堂久宗だった。彼の執事(三木のり平)は寅次郎を怪訝そうに思うも、殿様はすっかり寅のことを気に入ってしまい、寅を体よく追い出そうとする執事に対し刀を抜いて怒り出す。どこか世間ズレした殿様にまたも驚く寅次郎。
 そして寅次郎が東京人だと知った殿様は、東京で亡くなったという次男の話をする。次男には嫁の「鞠子」がいたが、その結婚を「身分違い」として認めず勘当同然の扱いをしたと言う。今はすっかり反省した殿様は、せめて息子の嫁に会って謝りたいと、寅次郎に探してくれるように依頼する。例によって酒の勢いで安請け合いした寅次郎だが、殿様は完全に信用しきっており、寅を追いかけて上京してしまった。困り果てた寅次郎はとらやの面々も巻き込み「東京にいるまりこ」という情報だけで、自分の足で「鞠子」を探そうとするが当然上手くいかない。
 そんなとらやにかつて寅が伊予大洲で出会った例の女性が現れた。彼女の名前は「鞠子」で、かつて愛媛出身の夫と死に別れたというのだ・・・。 <2018.12.31>

187.『皮剥いた』(原題:Peeled: The Potato Resurrection Official Trailer)
2016年、イギリス映画。監督:ニック・マッセイ。
映画を見終わった後、暫し至福の時を持ちたいものだが、それとは逆に本作品は二度とジャガイモが食べられなくなるかもしれないほどの強い印象を残すホラームービーのパロティーである。
 それはウィジャボードから始まった。西洋式ウィジャボード(またはウィジィボード Ouija board)とは、降霊術もしくは心霊術を崩した娯楽のために用いる文字盤であり、それにアルファベットや数字などの文字が書かれており、文字を指し示すためのプランシェットという器具一個からなるもの。その使い方は日本のコックリさんと似ている。
 女三人で試みていると指はウィジャボードに"POTATO"と動き、お告げがでた【写真】。その後、一人の女性の近辺に多様なジャガイモの痕跡が残されることとなる。いや、もっと上の正に迫りくるジャガイモの恐怖である。  街の飾りフェンスにはジャガイモが串刺しされ、事務所の机には芽が群がるように伸びたジャガイモがあり、家のタンスの引き出し、冷蔵庫の中やドアも満杯だ。おまけに水洗トイレにも入っている。ジャガイモから赤い血が吹き出し、恋人と寝ているとジャガイモの赤ん坊が生れて、それに赤く染まって血がある夢が・・・。 何が何やら判らないままにジャガイモの呪縛が女性を襲う。これ以上書くのはウンザリである。
映画の狙いがよく分からない。地震、津波から縁の薄いところに住み、普通の善良な市民生活をしても、ハイジュツク、信号無視、新幹線でナイフ男の近くに座るなど何が起こるか判らないものだ、しかもマーフィーの法則のように悪いことは重なることがあると思えと言う教訓なのだろうか。
(2019.1.1。この作品とは逆に、5分立ち話をしたおかげで、車がスーパーに飛び込む事故から免れることもあり、と期待して)

188.『小さな村の小さなダンサー』(原題:MAO'S LAST DANCER)
2010年、アメリカ。 監督:ブルース・ベレスフォード。
 中国の名ダンサー、リー・ツンシンによる自伝を映画化したもの。英国の名門バレエ団に所属するツァオ・チーの美しいバレエシーンが素晴らしい。
 1961年、中国山東省の小さな村で7人兄弟の6番目として生まれたリー・ツンシン(ツァオ・チー)。 11歳のある日、学校に視察に訪れた毛沢東夫人の目に止まり、北京の舞踏学校に入学する。
 家族から離れた寂しさとレッスンに馴染めず落ちこぼれてしまう。そんな彼を見かね、密かに持っていた古典バレエのテープを渡してくれるチェン先生がいた。バレエの美しさを知って欲しいという思いからだった。これをきっかけに、バレエにのめり込んでいくリー。しかし、チェン先生は江青夫人の方針に逆らった疑いで捕えられてしまう。それは、二度と会えない別れを意味していた。
 時は流れて改革開放路線の中国。青年に成長したリーに、米国のバレエ団の研修に参加するチャンスが舞い込む。共産主義とは文化も言葉も異なる異国に戸惑うものの、片言の英語でダンスのレッスンに打ち込んでいく。
 ある日、負傷した人気ダンサーの代役としてステージに上がるリー。そこで見事なダンスを披露した彼は喝采を浴び、ダンサーとして認められるようになってゆく。
 劇中で描かれる、中国と外国のカルチャーギャップが面白い。ツァオ・チー自身も、同じような体験をしたそうだ。曰く、「初めて海外で出された夕食が、何もかかってないラムチョップと、ブロッコリーやジャガイモをゆでただけの物でした。中国の炒め物と違って、全然美味しくなくてがっかりしました。女性に『どこかへ行かない?』って気軽に声をかけられることにも驚きましたね。また、ATMは当時使ったことがなかったので、最初にカードを作った時は嬉しくて、5ポンドずつ何度も引き出しましたよ」と。
 映画では、ダンサー仲間のエリザベス(アマンダ・シュル)と愛し合うようになり、結婚。亡命を決意するが、その決断は波紋を呼び、強制送還の危機になる。しかし弁護士の協力を得て、何とか米国への亡命が認められる。しかし、二度と中国に戻れず、家族とも会えないという厳しい条件がつくことになる。苦悩するリーだったが、自分の未来を信じ、この地で更なる修練を積むことを決意する。
 市民権を得た彼は、バレエの世界でさらに高い評価を得てゆく。その一方で結婚生活は破綻し、エリザベスは家を出て行く。寂しさから遠い故郷の家族に対する思いを募らせるリー。だが、そんな彼に奇跡の再会の日が訪れようとしていた・・・。<2019.1.2>

189.『モスクワは涙を信じない』(英題: Moscow Does Not Believe In Tears )
1979年、ソ連映画。監督:ウラジーミル・メニショフ。
1950年代後半から1970年代後半にかけてのモスクワを舞台に、田舎から出てきた3人の女性を描いた物語。彼女らは郊外のアパートで同室に暮らすことになり、やがて友人となっていく。エカテリーナ(ヴェーラ・アレントワ)は学位を取得しようと努力する傍ら、工場で働いている。彼女はある知識階級のパーティで、カメラマンをしていたルドルフ(ユーリ・ワシエフ)と出会う。ルドルフはエカテリーナを誘惑し、やがて彼女は妊娠するが、幼い子とともに捨ててしまう。
 ここで映画は一気に20年の時を経過する。エカテリーナが娘アレクサンドラ(成長後はナターリャ・ワヴィーロヴァが演じる)を生んですぐに移り住んだアパートで住んでいる。まだ未婚であるが、既に大工場の責任者となっている。彼女にはヴォロージャという名の年配の愛人(オレグ・タバロフ)がいるが、彼は既婚者であり、彼女は人生に何か不足を感じている。
 ある晩、エカテリーナが郊外のダーチャ(註)から電車で家に戻ると、ゴーシャ(アレクセイ・バタローフ)と出会う。二人は意識しあうが、想定外のルドルフの訪問して来た。ルドルフはエカテリーナの工場における驚異的な生産実態を報道するため、ニュース制作スタッフの一員として派遣されてきたのだった。ルドルフは娘の顔を見たいと願う。しかし、エカテリーナは自分が結婚する予定でると拒否する。しかしルドルフはそれを聞き入れず、ゴーシャとエカテリーナ、アレクサンドラの三人が夕食を楽しむところに訪問する。
 そこで、ゴーシャはエカテリーナが工場長であり、高額な給与を得ていることを知る。女性上位を好まないので混乱してその場を立ち去る。 消えた彼をエカテリーナとかつてのルームメイトたちは探すこととなり、アントニーナの夫ニコライ(ボリス・スモルチコフ)は酔っ払っているゴーシャを見つけて一緒に酒を飲み、エカテリーナの元に戻るようゴーシャを説得する。
 映画の最終シーンはエカテリーナの家の台所である。ゴーシャはスープを飲み、エカテリーナは目に涙を浮かべながら彼を見つめているのだった。
 【註】この映画ではダーチャが描かれていた。ダーチャとは土地代がタダの「家庭菜園」であり、給料が何カ月も遅れることが多かったソ連時代の置き土産とも言うべきもの。月〜金は町でお仕事。土日はモスクワを空っぽにしてダーチャへ。そこで野菜を栽培し、手作りのハウスで簡単で美味しい料理をし、イチゴやきのこ狩りをし、夜はご近所の仲間と乾杯!できた。一説ではジャガイモの9割はここで生産される、とも言われている。戸建ては地下室が整っており、瓶詰などが並び、失業してもしばらく心配がない。災害多く、ブラックアウトもある日本か学ぶべきところではある。
題名の「モスクワは涙を信じない」とは「泣いたところで誰も助けてはくれないものだ」という意味を持つロシアの格言である。そして、ロナルド・レーガン大統領はミハイル・ゴルバチョフ大統領と会見する前に、この映画を少なくとも二回鑑賞して一般のロシア人の心をより深く理解しようと務めたと言われている。
 ロシアの古い諺に、
『イモ(ジャガイモ)植えりゃ国破れてもわが身あり』
と言うのがある。<2019.1.3>

190.『イレイザーヘッド』(:原題:Eraserhead)
1977年、アメリカ映画。監督:デヴィッド・リンチ。
この映画は、リンチ監督が一人で製作・監督・脚本・編集・美術・特殊効果を務めて制作し、カルト・ムービーとして迎えられた長編デビュー作。
 フィラデルフェアのさびれた工業地帯、奇妙な髪形の印刷工の男ヘンリー・スペンサー(ジャック・ナンス)がガールフレンド、メアリー・X(シャーロット・スチュアート)との間に、鉛筆の先に付いている消しゴムのような頭【写真】の奇怪な赤ん坊をつくった。爬虫類のような容貌の赤ん坊は、手足が無く、常に奇声を発している。ヘンリーとメアリーは同居を始め、赤ん坊の世話をする。赤ん坊は奇妙な声で四六時中泣き喚き、メアリーに反抗的な反応を示す。
 ヘンリーは幻覚を見る。胎児の死骸が散らばるステージの上で、異形の少女は天国へ誘うかのような歌を歌う。ステージに上がったヘンリーが少女の手に触れた瞬間、少女は消え、宇宙の男が一瞬だけ姿を現して消える。そのようなことが度々おき、その子との共同生活の中で、しだいに、ハイコントラストのモノクロ映像の中に展開される悪夢と狂気の幻想世界に入っていく・・・。
 (株)メタモル出版の『映画大全集』によると、この映画は「シュールリアリズムをホラー映画として蘇らせた実験的手法、偏愛的な畸形へのこだわり、寒々とした疎外感、独特の音づかいなど、リンチ監督の原点とも言うべき映像的魅力に溢れた傑作」と、評価は高い。
 撮影は、1972年から始まり5年に及んだ。その撮影期間中、資金不足による中断があり、映画のストリーのように妻ペギーと離婚するなど、様々な障害が立ちふさがった。 このため、一時スタッフたちは撮影場所で生活することがあった。主演のジャック・ナンスは傍の馬小屋の中の土にジャガイモを植えたが、インゲンほどの大きさにしかならなかったと回想している。
奇形の赤ん坊の正体は、牛の胎児、毛を剃って丸裸にされたネズミ説(町山智浩による)など、諸説あるが、監督は手の内を明かしていないらしい。 <2019.1.4>


http://potato-museum.jrt.gr.jp/cinema18.html ジャガイモ博物館。ジャガイモと映画 18

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