ポテトエッセイ第57話

イタリア、ドイツへ =戦争と凶作で普及、ジャガイモ戦争【ジャガイモ博物館】

【図:北海道へは和人が持参】  イタリアは当時スペインの配下にあって、両国の関係が深かったため、ジャガイモを比較的早く入手できました。ローマ法王の使節の一随行員がモンズという町の長官ド・シブリーに2個のジャガイモとフルーツを贈り、さらに同長官が1588年、フランダース在住のオランダのチューリップ栽培の父といわれる植物学者カルロス・クルシウスに贈物として届けた、という記録があります。クルシウスは、ベルギーの画家フィリッポ・ド・セブリに頼んでジャガイモの最初のスケッチを描かせたりしました。
ドイツでは、一五八八年ころフランクフルト・アム・マインやウィーンの帝室植物園で珍しい植物として植えられていました。これは前述のカルロス・クルシウス(シャルル・ド・レクリューズ。ライデン大学教授)が一時ウィーンで皇帝マクシミリアン2世から植物園の管理を委託されていた時、もたらされたものとされています。クルシウスはイギリスやオーストリアにも旅行し、各国で植物の採集を行って、本を幾つか書いていますが、1601年には『植物史』を書き、その中でジャガイモの歴史について記述しています。
 なお、現在のジャガイモの学名に近い名前をつけたのは、フランス系スイス人ガスパール・ボーアンで、ソラヌム・ツベロスム・エスクレンツム(食用になる塊茎の意)とつけました。彼は当時バーゼルの植物学者であったが、今日でもバーゼルには世界的に有名なチバ・ガイギーとかロッシュという薬屋があります。
 ドイツでのジャガイモは、初め貴族階級の間だけで珍重され、一般に栽培されるようになったのは17世紀の三〇年戦争以降でありました。この長い間の戦争で、農地は荒廃し、収穫が減り、大飢饉となりました。このときオランダの傭兵が持ち込んだジャガイモを植えて、この危機を切り抜けました。その後の平和の到来でまた人気が落ちました。しかしこの戦いで、「ジャガイモは有毒で、流行病の原因になる」というそれまでの根強い迷信が薄れ、しだいに食用としての価値が認められるようになってきました。
 プロシア(ドイツ北東部にあった王国)の歴代君主は、ジャガイモで救荒や戦後の農業衰退を救おうとして、栽培を奨励しました。
 フリードリッヒ大王(1740〜1786年)も1744年、ジャガイモをプロシア全土に広めようとしていました。ベルリンのルストガルテンに植えさせ、宮廷のコックにも新しい料理法を工夫するよう命じました。また指導者を夕食会に招き、ポテトケーキ(カルトッフェル・プッファー)などの料理を紹介したり、料理の小冊子や栽培上の注意書きなどを人びとに配布しましたが、まだ一般に普及するところまでいきませんでした。
 そこで王は、兵士に命じて、植えるばかりになっているジャガイモをバスケットにつめて田舎に運ばせ、栽培を強制することにしました。続いて、ポンメルン地方のコールヘルクなどで、「五月初めに農民が栽培に励んているかどうかを検証せよ」と指令を出し、それを拒む者の耳と鼻を切り落とすと脅かしました。人びとは「犬でも軽蔑するジャガイモを人間がたべられるか、水のようなスープや木の皮を粉にしたパンのほうがましだ」と、王の差し向けた荷車を突き帰したこともありましたが、ついに空腹が頑固な偏見にうち勝つことになりました。
 この後、この「味が淡泊で、犬さえ食べない」と嫌われたジャガイモが、しだいに東部ドイツの食卓に上るようになり、プロシアは飢饉から立ち直ることができました。このように、新しい作物の導入は、時として民族の盛衰を左右することがある、と言います。  シレジア(ポーランド南部)の領有をめぐる七年戦争(1756〜1763年)のおり、フリードリッヒ大王はイギリスと結び、フランス・オーストリア・ロシアの連合軍を敵に回しました。同時にイギリスとフランスの間でもインド、北アメリカの植民地で争いが起こった。戦争が長引くにつれて、プロシアの経済力が低下し、イギリスの財政援助に頼らなければならなかったが、幸いロシアのピヨートル三世の援助もあって、ヨーロッパ屈指の大国に立て直すことができた。昔の君主指導の戦争では、君主のはたす役割が大きく、多くの国を相手に勝利を納めたのは、フリードリッヒU世の絶対的な責任感と不屈の意志によるところが大きかったようです。
 スウェーデンでのジャガイモ栽培はすでに1725年には知られていましたが、この七年戦争はジャガイモを普及させる上で大いに役立ちました。財政が苦しくなり、プロシアと講和したスウェーデンには、戦果がひとつも残らなかったが、帰国した兵士によって、ジャガイモだけがもたらされたことから、この七年戦争を「ジャガイモ戦争」とも呼んでいます。
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