北海道と言えばジャガイモ、ジャガイモと言えば「男爵薯」。多くの人びとにこのイメージが定着している。品種としては、これに「メークイン」を加えてふたつしか無いと思っている人も多いのではなかろうか。
多くの人びとに品種の入れ替わりがないと思われているのはなぜなのか、この答えに定説はないだろうが、私見を述べることとする。
○ 2大品種が広まったわけ
「男爵いも」は1876年北米で見い出され、「メークイン」はちょうど100年前にイギリスで世間に紹介されたもので、ともに19世紀の品種である。
これが我が国で定着したのは、消費者の好みにあったわけではなく、熟期が早く、ある種のカビによる疫病の蔓延前に収穫できたので、農家に好かれたためであろう。そして、本来なら欠点とされる「メータイン」の特異な長紡錘形と「男爵薯」の目の深さがかえって消費者の脳裏の中で差別化され定着するまでになったものであろう。
西南暖地で「ニシユタカ」が普及した理由も、消貧者二一ズに合ったものを育成したというより、その農産性に着目した農家が飛びついたためと見るべきであろう。煮物料理が多い関西を中心に販売しているから普及したのであって、粉ふきを好む関東から販売したとすれば、食味の点からこれまで伸びることはなかったであろう。
また、消費者の求め応じて一定量年間供給されるか否かがスーパーや一次加工業者にとっての関心事である。その意味から言っても、2大品種は日本列島収穫前線の北上につれて需要に対応できることが人気を支えている面もある。
○古い品種が主役なのは欧米も同じ
アメリカでは、1914年に見つけられた「ラセット・バーバンク」がある。これも、アメリカでは大きないもがたくさん獲れて、しかも肌が丈夫で取り扱いが楽なので農家に好まれ、さらにアメリカ人の好むフレンチフライにも適しているため、ほぼ1世紀近く経過した今も驚くことに作付の約半分を占めている。
オランダでも、1910年から売り出された「ビンチェ」が、豊産のため農家から受け入れられ、第一次大戦中に普及し、その後パリーでフレンチフライにも向くことがわかったこともあって、がん腫病のでるドイツを除き、広く普及している。
○生食用以外では良ければ変わる
澱粉用とかチップス用では、用途にあったものなら直ぐ交替する。生食用は、蒸す、煮る、揚げる、炒める、べ一クするなど各種の調理に使うことができ、『組み合わせの王様』と呼ばれ、広く食べられている。しかし、我が国では1年間に食べる総量は、欧米の数分の1でしかない。このため、ほとんどの主婦はそれぞれの用途にそれぞれ適した品種を購入することはせず、買ってきた小袋ひとつで問に合わせている。
また、ヘルシー、安全を求めているが、これが品種と結びつくことは少なく、関西なら煮物の比率が高いので「メークイン」、関東ならホクホク感のある「男爵薯」を求め、これらでおおよその料理をこなしている。一方、澱粉やチップスなどの油加工では、品種の特性が歩留りやその製品の良否に直結するので、品種の更新は増殖率の低い作物の割には早くに進む。例えば、澱粉含有率の低い「紅丸」は「コナフブキ」ヘと迅速に変わり、ポテトチップの色で劣る「農林1号」は「トョシロ」に移った。惣菜向きでも歩留りのよい「さやか」に人気が高まっている。生食用を主体に、余ったものを加工業者にも使ってもらえる品種を開発するば2大品種を超えることができる。つまり、肉色は白、やや粉質で、煮崩れがないものが欲しい。もちろん、形が良く、目や尻が浅く、食味や風味に優れているものである。言うは易く、いざ『やれ』と言われると、自分でも短年月で完成できないが、今育種家に期待しているのはこの点である。