ポテトエッセイ第18話
【←ジャガイモの果実(み、berryベリー、seed ball)。少し黄色みをおび、透明感がでてくれば食べられます】
少し昔になりますが、道立中央農業試験場(現在地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 農業研究本部 中央農業試験場)に勤めていたころの平成2年7月10日付け毎日新聞岐阜版に、ジャガイモに珍しく果実がなった、と出ていました。その年は北海道でも普段は実がならない「男爵薯」に果実がなった、という話がときどきでてきました(8月7日道新外)。そして8月15日道新夕刊では、樺太に住んでいたことのある54歳の人が、「天候のいい年に限ってジャガイモに実がついたものです。枝が枯れる前に実を採り、熟したものを生のままで食べます。甘くてとてもおいしいですよ」と述べていました。
でん粉用品種の多い道東では、果実(ベリー、漿果)のつくのが当り前であって、着かないのが新聞種になりそうなのです。北海道で一番栽培面積の多い、つまり「男爵薯」よりも広く栽培され、お好み焼きや焼酎に好適でもあるでん粉専用品種「コナフブキ」ではたくさん着きます。しかし皆さんご存知の「男爵薯」の開花数をみると、道東の冷涼な中標津町などでは例年道南に比べ極端に少ないのです。
道立農試のある道央の長沼町の例では、萌芽の早かった昭和42年と、6月中旬の気温が平年比2.6度も高かった平成2年に開花が早まり、実もみられました。逆に5月下旬から7月中旬まで低冷であった昭和60年と、4月下旬から7月上旬まで低冷に推移した平成元年には、「男爵薯」は開花期に達しないで終っています。そのような年には実の話は聞かれません。蕾をつくる時期が実の多少に影響しているようです。
「親の意見とナスの花は、千に一つも無駄がない」と言いますが、ナスと同じナス科の植物であるジャガイモでは無駄のある品種が多いのです。よく知られている「男爵薯」とか「メークイン」では、通常花が咲いても実がなりません。時折「男爵薯」にトマト(実)がなったと連絡をうけますが、そのベリーに種子が入っていないことが多いのです。しかし、でん粉用の「コナフブキ」とか、フレンチフライにもなり煮くずれの少ない「ホッカイコガネ」では、よく実がつきます。近年道外でも目につくようになった「キタアカリ」とか「とうや」でも見られます。九州の例では美味しかった「デジマ」では稀に見られましたが、昔今多い「ニシユタカ」では実がつきません。ムギやコメと違って、実がたくさん着くかどうかは品種改良の対象とはなりませんので、今後どんなのが皆様の目にとまるか、予想がつきません。
【←果実(実、漿果、ベリー、berry)と取り出された真正種子(true seed)。2013年追加】
実は絶対食べてはならない、とよく書かれていますが、ジャガイモの品種改良をしているとき、いたずら半分時どき食べていました。緑色が薄まり、少し黄色味を帯び、多少柔らかくなったものは食べても心配ありません。昔(太平洋戦争中)よく食べたと言う話を聞いたこともあります。特に美味というものではありませんが、品種・系統によってはイケルのもあります。果実の中には甘い香りがし、中にはポテトグリコアルカロイドが10mgと芋並に少ないのがあります。米田勉(1991、園芸学雑誌)もぶどう糖、果糖、有機酸(クエン酸、リンゴ酸)があり、果物に近いものがある、とのデータを示しております。、たくさん食べて下痢した話を聞いたことがあります。しかし、1シーズンに数回、1回に5、6個食べ続けてかなり長くなりますがその心配は全く無かった。この果実を道北のアイデアマンと私がお呼びしている佐久間さんは焼酎につけたところメロンの香りがしたと連絡してきたこともあったくらいです。私も時折、色が少し黄色味の透明感ある果実にあうと数個家に持って帰り、お皿に入れるなどして机の上に置きます。フルーティな、いい香りが楽しめます。
雑草のイヌホウズキや、生ジャガイモにわずか含まれているステロイドアルカロイド配糖体がガン細胞に有効であることが知られているので、副作用の少ない果実を少しづつ食べるのも悪くはないかも知れません。私がまだガンにならないで済んでいるのはこのためかも?。
【←果実(ベリー)が熟して、道ばたに落ちているもの。雄性不稔の男爵薯などには見られない風景。2001年追加】
コメ、ムギ、ソバ、トウモロコシなどでは子孫を残すため実が重要な役を果たします。しかしジャガイモは、イモを植えてイモをとる栄養繁殖植物であるため、実がつかなくても何の心配もいりません。
しかし、ジャガイモの改良をやっている者にとっては、果実(ベリー、漿果)は重要なものなのです。人工交配でならせた果実の中には、真正種子(True Potato Seeds、TPS。真性種子は間違)が数10個入っています。この種子を植えてみますと、出てくる植物はウイルス病にかかっていなく、イモ数や重さで、親より勝るものが出ることがあります。
[追記]一般の方が、実のなる品種に出会う確率の高いものとしては、「キタアカリ」、「とうや」「ホッカイコガネ」、「こがね丸」、「マチルダ」などがあります。2015.8