ポ イ ン ト |
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昭和59年(1984)の筑波大学内藤祐史教授の報告によりますと、1歳半(体重11キロ)の幼児が、大みそかの夕方、芽を2,3個食べて重い中毒を起こした。元日から2日の朝まで嘔吐や下痢、けいれんなどが続いたが、手当のかいがあって、2,3日後、元気をとりもどしたという。
PGAは、表皮が緑になっているものとか、目(くぼみ)から伸びた新芽の基部に多い。PGAを含むと通常エグミが強いので、口に入れるとすぐ判りますが(ベロ・メーターだ)、不幸にして食べた場合の症状は、食後数時間しますと腹痛、胃腸障害、虚脱、目まい、眠気、下痢などが現れてきます。国内では学校とか工場の給食などでたまに発生します。
外国で、百名の兵士が集団中毒を起こした例があります。わが国では、イモを多量に食べないので事故は少ないのですが、マッシュ・ポテトによる集団中毒がありました。平成11年と12年には、小学校6年生が学校で栽培し、土寄せ不十分で緑になったジャガイモを選別せずに食べて中毒症状を出したそうです。子供は感受性が高いので、より注意が必要です。
PGAの多くは塊茎表面から0.5mmのごくごく浅い部分に多い。中毒の心配がありそうな緑のイモでは、捨てるか緑色部を大きくむき、伸びた芽(くぼみの目ではない)をえぐり捨てましょう。未熟で肥大途中の小さないもの周皮の剥がれやすいのは、完熟したいもに比べ、同じ時間光にあたっていると、アルカロイドの進展が速いので、より注意が必要です。表面の土が乾いたなら早めに光りに当たらないようにしましょう。「未熟イモ、小イモにアルカロイドが多い」と書かれているのをみかけますが、間違いです。日に当たったイモに多いのです。日に当たると未熟イモの緑化速度は完熟イモに比べて速いので、注意が必要です。完熟イモも未熟の段階を経て大きくなるのです。
厳密に言いますと、光の波長も関係し、表皮の緑化(葉緑素)とPGAの含有は必ずしも平行していません。しかし、表面に緑の部分のあるのは避けたほうが安心です。PGAの多くは塊茎表面から0.5mmのごくごく浅い部分に多いので、中毒の心配がありそうな緑のイモでは、捨てるか緑色部を大きくむき、伸びた芽(くぼみの目ではない)をえぐり捨てましょう。
店頭では光が強いほど緑化が多くなります、たとえ光が弱くても長い間おくと見られるようになります。掘り上げて間もない未熟イモでは緑化が速いのですが、月齢が進と最外側の周皮が厚くなるので緑化しにくい。通常、戸外で3〜7日で緑化してきます。200ルックスのところに4,5日おけば危険です。貯蔵は20ルックス以下が安全です。また青い光はアルカロイドができやすいのですが、逆に緑の光は緑化が少ないので、店に使えそうですが、視覚上好まれず、倉庫の色に向きます。店ではチリーやニュージーランドのように壺にでも入れて売るか、光を使うのであればアンバー色あたり無難でしょう。結論として通常は、サツマイモの保管温度より10℃低く、紙やダンボール箱に入れ、ダンボールなどの取っ手穴をガムテープで塞いでおくのが安全でしょう。
PGAは通常生イモ100g中20mg以下で、10mgを超えると苦みを感じる人がでてきて、10〜20mgで、はっきり判ります。
イモの皮層部に多く、30〜60mgほどあります。反対に肉部では1mg以下のことが多いです。最外側の周皮にはイモ全体の約9割を含んでいるので、料理の時の皮むきでPGAのほとんどは捨てられています。
ソラニンは、長いあいだ単一のアルカロイドであると考えられていましたが1954年以降、いろいろあることが判ってきました。これらのポテトグリコアルカロイド(PGA)のなかの95%はα型−ソラニンとα型−チャコニン(カコニン)ですが、残りにはβ型やγ型もあります。厳密には、アグリコンの異なるα、β−ソラマリンやコマーソニン、レプチン、デミッシンなどを包含しています。
大量に食べるドイツには、月夜にジャガイモを生で食べると死ぬ
と言うことわざがあります。
ソラニンは水溶性です。芽を捨てた付近とか、緑色の皮付近にある部分が残っていても、水につけたり茹でたりすると少し溶出します。しかし、ジャガイモ中のソラニンは243〜270度で分解するとされており、100度の水煮で消えることはなく、熱による分解はほとんど期待できないので「加熱調理では分解しない」と考えておくべきでしょうが、熱水にはある程度溶出するという結果が多く報告されており、名古屋女子大の実験(皮付きで調理)では、生に比べ、 ゆで、揚げ、オーブン、電子レンジで50−60%に減少したという結果もあるそうです。
緑化したジャガイモは食べられないので、ときどき堆厩肥場などに放置しますが、これが畑に残るのではないか、との心配があるかと思います。しかし、そのようなことはありません。自然界の有機毒素、例えばジャガイモ、ソラニン:C45H73NO15やトリカブトのアコニチン:C34H47NO11 、動物の例ではフグ毒のテトロドトキシン:C11H17N3O8などは、土中で何れも微生物により、CO2、NH3(アンモニア)、H2Oに分解されて無毒化されてから作物に吸収されますので心配はありません。
賢明女子学院短大の小机信行さんらによって主要品種のPGA成分が発表されました(1990年)。よく知られているように、PGAはイモの皮層に多いのです。品種によっては髄部にも認められています。これによると、でん粉用の品種「エニワ」および煮物などの食用で知られる「メークイン」で含有が多く、「さやか」、「ニシユタカ」、「ワセシロ(伯爵)」では少ないことがわかりました。アメリカではPGAの含有は20mg%以下とされているようですが*、これでいけば「メークイン」が売れなくなる場合もでてくるかも。ただ油で上げると苦みがわかり難くなり、皮を剥いて煮るとある程度溶けだしてくるとも言われています。<『植物性食品II 初版』P6-9。目と芽の区別がなく、意味不明のとこがあったり、混乱しています>
*:アメリカで1968年にR.V.Akeleyらにより育成された「Lanape」は固形物が高く、ポテトチップに向くとされていたが、アルカロイド含有が高いことが判明し、栽培されなくなりました。
中国の雲南省では、ナス科の雑草イヌホウズキを薬草として食べて、発ガン予防に役立てていることに関心のある熊本大学の野原稔弘教授らの研究によりますと、ジャガイモから抽出したステロイドアルカロイド配糖体に抗ガン作用のあることが判ってきました。薬と違って、その作用が穏やかで、抗ガン剤に見られるような副作用は少なく、生のジャガイモのしぼり汁を飲み続けると(果物や野菜ジュースを加えて飲みやすくしてもいい)ガン細胞に有効とされています。
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αチャコニン | αソラニン |
計 | αチャコニン |
αソラニン | 計 | |
エニワ | 29.7 |
33.1 | 62.8 | 0.2 |
0.4 | 0.6 |
メークイン | 28.0 |
22.8 | 50.8 |
0.2 | 0.1 | 0.3 |
トヨシロ | 14.3 | 14.3 |
28.3 | * | * |
- |
紅丸 | 12.6 |
9.1 | 21.7 | * |
* |
- |
男爵薯 | 6.2 | 6.3 |
12.5 | * | * |
- |
ワセシロ | 6.0 |
6.0 | 12.0 | - | * |
- |
表2. 品種別アルカロイド(mg/100g)と曝(ばく)光による増加
品 種 | GA含有 | 7日間 曝光後 |
メークイン | 21.7 | 68.8 |
男爵薯 | 12.4 | 38.8 |
ワセシロ | 14.4 | |
キタアカリ | 23.3 | |
とうや | 15.7 | 64.2 |
さやか | 16.7 | |
ムサマル | 18.3 | |
農林1号 | 12.4 | 38.8 |
トヨシロ | 20.0 | 42.3 |
ホッカイコガネ | 15.3 | 42.1 |
デジマ | 12.1 | |
ニシユタカ |
<注)小原ら,1998。グリコアルカロイド(GA)はα-チャコニンとα-ソラニンの計。
緑化進行の早い18℃高温下に1週間おいたもの。>
国によっては、20mg以上のいもの流通に制限を加えている。
【写真は、小さくてアルカロイドの少ない品種「インカのめざめ」】 光に当たってもアルカロイドの増えにくい品種としては、「ニシユタカ」、「さやか」、「こがね丸」などあります。しかし、「メークイン」は注意したほうがよい。
最近、「シャドークイーン」、「キタムラサキ」など、皮色が紫の”ガンクロ”品種が見られるようになりました。これらは取扱中に曝光があっても地色が黒いため緑化しているかどうかの判断が難しい。このため、小学校などで植える場合は、色黒品種を使わないほうがいいでしょう。サイズから見ると、小さいものは概してPGA含有率が多く、肉質部にも含んでいるとも言われますが、日本の品種で一番小さく、美味しいことで知られる「インカのめざめ」はアルカロイドの含有が少なく、曝光によっても増加が少ない。
ジャガイモ塊茎の表面は、光線に曝されていると次第に緑化し、調理したとき皮を剥いてもエグ味を感ずることがあります。
わが国のように、店頭で透明なビニール袋に入っていると、緑化が進行します。これを防ぐため光を透過させない袋に入れるといいのですが、消費者はどうしても中の芋の外見とかサイズとかを確認したがります。緑化を極力抑え、消費者の気持ちに応えるため、ニュージーランドなどでは次のような袋裏側の一部を網にしたものが使われております。
では、実際の対策をまとめてみましょう。
○【ジャガイモ事典】(いも類振興会、2012年)の227頁には中尾 敬が
緑化は、光が強いほど、曝光時間が長いほど、温度が高いほど、塊茎表
皮が未熟なほど進行しやすい。(以下省略)と書いております。全12行の中に未熟イモにアルカロイドが多い、などとは書いておりません。
(1)培土を上手にやる。
半培土を併用、適水分時に培土、土の量は多く。
(2)未熟芋は緑化進行が早いので、光を長時間当てない。
しかし、戸外で被覆すると、内部温度が上がり、アンコや脱水を起こす。
(3)畑に長く放置しない。直射光で品温が上がり、より緑化が進みます。
(4)納屋でも散光を当てない。
(5)集荷場の光線は緑にする。波長 500〜550nmがベスト。
緑化の進みにくさは、
緑、ゴールド、赤>黄、琥珀>標準蛍光>青、自然光
これを考えた蛍光灯は、
東芝 カラー蛍光ランプ FLR 40S-G/M 40W長さ1198mm、径32.5
ナショナルカラード蛍光灯 FL40S-G-F 同上
(6)スーパー、家庭などでは
@同じ芋を長く置かないで、回転よく売る。
<毒は目でなく芽にあるが、葉をテンプラにする人がいる>
A袋はポリエチレンよりも
光を透し難いハトロン紙、取手口を塞いだダンボールにする。
B緑は緑化の判断に困るので、光は蛍光灯よりも琥珀(アンバー)色などにする。
C生芋100gにつき20mgを超えるとえぐ味を感じる。
D「シャドークイーン」、「キタムラサキ」など皮色の紫なものは緑化しても分かり難いので注意する。