ポテトエッセイ第111話

ジャガイモの品種改良(育種) 【ジャガイモ博物館】


 通常のジャガイモ育種は「男爵薯」、「メークイン」のような雄性不稔の場合を除き、まず花の雄蘂の除雄を行って、翌日ぐらいに狙った品種の花粉を雌蘂の柱頭に付けてやる交配から始まります(交雑育種法)。
 例外的に「バーバンク」畑で「ラセット・バーバンク」を見つけたり、民間育種家の俵氏が青枯病に強い「メイホウ」の畑で皮色が黄白から赤紫に変わったの「タワラムラサキ」や紫の「サユミムラサキ」を見つけたと言うようなこともあります(突然変異育種)。意図的におこなったものでは、かって根釧農試で「紅丸」にX線を照射して皮色の黄白な色「根育16号」を育成したことがあります。この外遺伝子組換えによる形質転換とDNAマーカーを用いた選抜もあります。

ジャガイモの交雑育種は努力の蓄積
[写真:青枯病に強いが、塊茎は小粒なS.commersonii 花は☆状]
 ジャガイモはクローンで増やしているので、このような見た目の違う枝変わりを一度見つけると簡単に品種登録まで到達できます。しかし沢山の遺伝子が関係しているでん粉含有率とか、環境の影響を受けやすい収量では確認に少し年数がかかります。
 地下に塊茎をつけるものをジャガイモと言えば、その育種は自殖性の稲麦に比べて子供の変異幅が格段に広い点が面白く、逆に1個植えて10個ほどしか増えないので育種に年数がかかる点が根気のいるところです。  ジャガイモの子供がいろいろ変化に富むわけは、ジャガイモの種の起源に原因があります。
 栽培品種のジャガイモは、同質4倍体のS. tuberosum L. 種に属しています。この栽培ジャガイモは栽培2倍体種のS.stenotonum、S. phurejaと雑草2倍体種のS. sparsipilumの交雑から派生したものであるとされています(Hawkes、1978年)。そして地下に塊茎を産生する約180種の野生型品種が判明しており、ジャガイモ節 (Petota)のPotatoe亜節を構成し ジャガイモ イヌホオズキ節(Solanum)の仲間に属しています。ほとんどは2倍体ですが3x、4x、6x種も利用可能なのが宝くじを買うように面白い。これらの野生種は、あらゆる種類の病害や害虫への抵抗性に関する主な遺伝子多様性とか高でん粉遺伝子の供給源として育種で広く使用されています。しかしS. tuberosum との直接交が困難なものもあり、橋渡し種と一度交配して種間雑種をつくる手間のかかるものもありますし、Basarthrum亜節のS. muricatum は塊茎をつけず、バレイショ近縁種のうち唯一の果実を食用とするものもあり、果実と塊茎をゲットする品種を作ろうとしても、S. tuberosum との直接交雑は困難です。

 ジャガイモは乾いた種子ではなく、水分の多い野菜である塊茎で増やすため、ウイルス病(例・Yモザイクウイルス)、細菌(例・軟腐病)、菌類(例・疫病)におかされる確率が高い。最近はジャガイモシストセンチュウに加え、ジャガイモシロシストセンチュウも問題になってきました。
 育種に使える種の数が豊富と言っても、このうちのある病気には強いが、小粒で収量が極端に劣るものが多かったり、晩生で親株から離れて塊茎をつけたりなどといったものが多い。

 加えて、家庭料理の外、でん粉(片栗粉)、ポテトチップ、フライドポテト、マッシュポテト、缶詰に向いているかチェツクされます。
 北海道産の多くはでん粉用に回りますが、これにはでん粉含有率、糊化開始温度、粘度、離水率などがチエックされます。加工用で重視される特性は、塊茎の形状と大きさ、デンプンの含有率、作りやすさ(環境適応力など)、機械による損傷の受けにくさ、還元糖の低含有率(特にチップス用で)、貯蔵性、となります。生食(調理)用では、適サイズ、目の深さ、肉色と言った外観に加え、煮崩れ、粘度(口当たり)、粉ふきの度合いなどを調査しています。 こうして最終的に通常20万から100万ほど植えて1つの品種を選択しています。


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