ポテトエッセイ 何故人気なの『男爵・メーク』

 北海道と言えばジャガイモ、ジャガイモと言えば「男爵薯」...。多くの人びとにこのイメージが定着している。品種としては、これに「メークイン」を加えたふたつしか無いと思っている人も多いのではなかろうか。
 多くの人びとに品種の入れ替わりがないと思われている何故なのか、その辺の疑問にふれてみたい。
 ジャガイモは、どの品種も多様なビタミンをバランスよく含んでヘルシーであり、品種、貯蔵条件にもよるものの蒸す、煮る、揚げる、炒める、ベークするなど各種の調理に使うことができ、『組合わせの王様』と呼ばれ、若者から年輩者まで広く食べられている。  しかし、1年間に食べる総量は欧米の数分の1でしかない。このため、ほとんどの主婦は用途別に適品種を購入することなく、買ってきた小袋ひとつで間に合わせている。家にロシア人のもつ地下貯蔵庫などが無いから、用途別に幾つかの適品種を揃え、時期別に美味しいものを選ぶことはできない。
 ヘルシー、安全を求めているが、このことが品種と結びつくことは少なく、関西なら煮物の比率が高いので「メークイン」、関東ならホクホク感のある「男爵いも」を求めおおよその料理をこなしている。品種が長く変わらない最大の原因は嗜好が意外と保守的なことと、この"好みの地域性"も考えられます。
○「男爵薯」と「メークイン」普及のきっかけ
  「男爵薯」は1876年北米でアイルランド系の靴直屋さんが赤皮の「アーリー・ローズ」の中から見い出さした ?「Irish Cobbler」であり、わが国には明治41年(1908)函館ドック専務川田龍吉男爵がかって留学していたイギリスから導入した。   「メークイン(May Queen)」は100年以上前(1900年)にイギリスのサットン商会が世間に紹介したもので、大正年間の頭ころにわが国に入ってきた。ともに博物館においてよい古い古い品種です。
 これらがわが国で定着したきっかけは、消費者ニーズによく適合したわけではなく、まず耕作者に好かれたためです。つまり、早生なので疫病(かび)がまん延する前に収穫でき、その後に秋まき小麦、白菜、大根を植えることができるほか、本州では水田裏作でも「男爵薯」を作ることができました。しだいに産地形成がなされ、消費者にも知られていきました。粉吹き、揚げ物、コロッケなど比較的広い用途に使える点も好かれました。「メークイン」は煮崩れが少なく煮物が好きな関西で人気が生まれました。そして、本来なら欠点とされる「男爵薯」の目の深さとか「メークイン」の特異な長紡錘形とがかえって消費者の脳裏で差別化され定着するまでになりました。
○欧米も古い品種が元気よい
 アメリカでは、ラセット・バーバンク(Russet Burbankラシット・バーバンク)」(写真)が、1914年コロラド州デンバーDenverである人に「バーバンク」の芽条変異(りんごでいう枝変わり)として見つけられたものだが、当時の疫病にはかかり難く、写真のような大きないもがたくさん穫れ、しかも取り扱いが楽なことから農家に好まれ、さらに消費者には甘み(ブドウ糖)が少なくアメリカ人の好むフレンチフライにも適しているため喜ばれ、今で驚くことに作付けの約半分を占めている。
 オランダを例にしても、古い「ビンチェ(Bintje)」が今も最も有名です。これは育種家で先生が、1910年ヨーロッパで好まれる黄肉のもをクラスのかわい子ちゃんの名をつけて売り出したものだが、豊産のため農家から受け入れられ、第一次大戦に普及した。その後パリーでフレンチフライにも向くことがわかったこともあって、癌腫病のでるドイツを除き、広く普及しています。
○変わらないのは生食用だけ
 ユーザー・ニーズがよく反映するのは澱粉用やチップス・業務用です。要望に品種特性が合えば、品種の更新は増殖率の低さの割には迅速に進む。例えば、澱粉含有率の低い「紅丸」は「コナフブキ」へと変わり、あまり知られていませんが、今北海道では「男爵薯」より作付面積が多い。チップス用ではカラーのよい「トヨシロ」、「スノーデン」などに移行しつつあり、惣菜向きでも歩留まりのよい「さやか」などへと変わりつつあり、生食用(青果用)を除き品種の更新が進んでいます。

○だれが品種の普及に努めるのか
 道内には、古くから品種改良をしてきて、「トヨシロ」、「ホッカイコガネ」、「キタアカリ」で知られる北海道農業試験場(現北海道農業研究センター。十勝管内芽室町)と、「ワセシロ」や「コナフブキ」で知られる道立北見農試(根釧農試から移転の馬鈴しょ科。オホーツク管内訓子府町)、さらに昭和60年から育種(品種改良)を始め、「ノースチップ」の育成や「マチルダ」などの導入で知られるホクレンがあり、アメリカから「アトランチック」などの導入で知られるカルビー・ポテトも品種多様化の一翼を担っている。
 新しい品種は、交配からおよそ10年を経てデビューする。収量、用途に見合った特性、農家にとってのつくり易さ、例えば熟期が適当で、各種病害虫に抵抗性があるかなとを十分調べてから、奨励品種に決めている。栄養繁殖のため、この能力評価と種いもの増殖に年月を要し、さらに品種決定後、消費者の手に入るまで宣伝し続けるところがないに等しいまま放置されることが多い。
 このため、マイクロチューバーの利用を勧めるものもいるが、年限短縮にほとんど役立たず、種代と手間のみかかるため嫌われている。
 コメのようにもっぱら炊飯に使われるものは消費者ニーズ(おいしさ)が重要で、その尺度もできているが、馬鈴しょでは2大品種でさえ、評価が正反対に分かれ、用途や貯蔵の経過月数、温度などとともに評価が変化するので、泥沼となる。西南暖地で近年「ニシユタカ」が普及した理由は、消費者ニーズに合ったものを育成したというより、その豊産性に着目した農家が飛びついたためと見るべきである。
○2大品種を超えるには
 大量には食べないがいろいろの料理に使いたい消費者をつかむには、生食用では各種料理に使える『ホクホクして煮崩れし難いもの』が望ましい。こうすれば、関西でも関東でも好まれましよう。そして農家にとってつくりやすく、さらに表皮の一部がパンダのように赤いとか識別の容易な特性があれば鬼に金棒だ。さらに、このように広く使えるものを継続的に供給しなければ大品種を超えることはできない。
 そして行政や関係機関が種いもの増殖計画に合わせて品種の宣伝をし、レシピ−などの情報をつけて売るなど、もっとたくさん食べるようにもって行けば、料理別に細分化は免れないが中堅品種までは育つであろう。また、実用上いまいちの品種でも、少し変わったものでよければ比較的容易に世に出すことができるが、用途の限られた差別化はともすればそれぞれが独占的になり、多様化して種いも生産を複雑にはするが2大品種凌駕することはないであろう。
 なお、加工用では、目が浅く、還元糖がすくないなど、用途にあうものを育成すれば、短期間にそれに変わってしまうのは、今後も同様である。澱粉用では、リン含量が低くて、低温で最高粘度を出し、カマボコにしたときの離水率が低いものが育成できれば、今澱粉用の大品種「コナフブキ」を超えることができる。


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