煮くずれ細胞とでん粉の話(そして ペクチン)...ジャガイモ博物館

*.澱粉含有(ライマン価)の高いほうがいいのか。煮くずれの品種間差
 食用では、ほぼ澱粉の量に比例して、ほくほく粉質に(mealy)なり、食べると舌の上が乾いたような顆粒状になったような感じになりますが、逆に澱粉が少ないと粘質に(waxy,soggy)なります。つまり、通常ほくほくしたものが好まれますが、度をこすと煮ている間に煮崩れをおこしやすい。
 蛇足になりますが、澱粉原料用の「コナフブキ」を水煮しますと、完熟してから掘ったものは「男爵薯」の3割増しの澱粉があるため、鍋の底に澱粉がたくさんたまり、塊茎は煮崩れし、こなごなになってしまいます。
 品種によっても肉質テクスチャーtextureに差があり、「ワセシロ」や「キタアカリ」は粉質で煮上がりが早いので注意がいります。「男爵薯」、「ベニアカリ」なども粉質ですが、「メークイン」、「花標津」、「さやか」、「ホッカイコガネ」などは粘質です。おでんや缶詰には粘質なものが好まれます。

でん粉価(ライマン価とも言う)の高い品種ほど、煮くずれが多い傾向にありますが、でん粉を比較的多く含んでも細胞の小さい「ホッカイコガネ」は煮くずれが少ないことも知られています。  栽培環境で大きく替わりますが、でん粉の多いものから順に、
 ホッカイコガネ、トヨシロ、マチルダ、ワセシロ、キタアカリ、男爵薯、さやか、メークイン、とうや、レッドムーンなど となっています。
本州中部以北はホクホクした「男爵薯」が好まれ、関西では粘質の「メークイン」などが好まれます。青果用ではホクホクして、煮くずれの少ないものが望ましい。品種改良を行う行う者としては、そのようなものを狙っていますが、なかなか難しい。

*.煮くずれのメカニズム
  澱粉の多いものは、煮ると糊化して膨らむので、細胞内圧が高く、細胞壁の中層での分離がおこりやすく、細胞間が容易に離れやすいのですが、未熟な新ジャガでは、細胞と細胞が強くくっつき、マッシュすると細胞自体が壊れやすい。
 粉ふきの細胞は、熱いほうが細胞が離れやすく、マッシュポテトにしやすい。冷えてからつぶすと、細胞膜が破れ、中から糊の状態のでん粉が押しだされ粘りやすい。
 北海道産を例にしますと、秋はやや粉質ですが、長期間貯蔵されたジャガイモは、その肉質が1,2月以降しだいに柔らかくなり、脆さを増していき、煮えあがりが早まります。そして、肉がすこし黄色みを増します。
 粘質な(細胞同士が離れにくく、でん粉が少ない)「メークイン」でも、寒冷地で肥培管理を上手につくりますと粉質となってしまいます。せっかく上手に栽培しても、おでんや形を残したいカレーライスをつくりたい人には嫌われてしまいます。
 概して「メークイン」の細胞中のでん粉粒は「男爵薯」に比べ大きいのが多いが、数としては少ない。ゆでると細胞中のでん粉が糊化して膨らみ、細胞が球形化し、細胞と細胞が離れやすくなります。「メークイン」中のでん粉数が少なくて、細胞の球形化がおきにくく、細胞を接着する働きのあるペクチンが溶け出しにくいので、煮くずれが少なくなります。ふかしたり煮たりするときは、皮つきを使うと煮くずれを抑え、しかも外側に多い栄養分、つまり澱粉、蛋白質、リボフラビン、ビタミンB6、造血作用剤として知られている葉酸やミネラルを残すことにもなります。
 ジャガイモをゆでるときに一緒に入れると煮崩れ少なく、ジャガイモを細切りにして梅干を一緒にいためるとおいしい、と言うのも聞いたことがあります。

*.水から煮ると煮くずれが少ないのはなぜですか。
 ホクホクジャガイモでも水からゆでると煮くずれを少なくできます。これは、野菜には、野菜の細胞壁や細胞間隔に含まれるペクチンの働きにより、ゆで汁の温度を60℃ほどに長め経過させると固めになる硬化現象があるからです。  通常、野菜を加熱すると軟らかくなります。ゆで汁の温度を約60℃くらいに保ち続けますと、ほとんど軟らかくなりません。それどころか逆に硬くなり、その後100℃付近で加熱しても軟らかくなりにくくなります。これを硬化現象といいます。ジャガイモではゆで汁の温度が上がれば軟らかくなるのですが、煮くずれはし難くなります。水から煮ると、肉部内外の温度差が少ない上に、60℃付近で硬くなるため、いっそう煮くずれが少なくなります。(高橋素子「Q&A 野菜の全疑問」2001.9講談社)

 水からゆでると煮くずれし難いが、加熱開始から5〜10分して入れると煮くずれする。60〜70℃では酵素が働いて細胞と細胞を間にあるペクチンとペクチンの橋渡しをしてくれるが、この温度を短期間に経過して温度を上がってしまうと酵素が死滅して、ペクチンの働き弱く細胞が離れやすくなり、包丁を入れると煮くずれが多くなります。
 つまり、野菜を高温で加熱すると軟らかくなるのは、おもに細胞間隙にあるペクチンが熱により分解されて、細胞と細胞が離れやすくなるからです。その上細胞中のたくさんのでん粉が膨潤して大きくなり、パンパンになったゴムまりのようになりますので、細胞と細胞の接着面が減少して、いっそう粉質になります。そしてでん粉は外側の維管束付近により多く含まれています。  ジャガイモを水からゆでると、芋の外側と中心部の温度差が少なくなり、均一に煮えます。しかし、ジャガイモをいきなり沸騰したお湯の中に入れますと、外側は煮くずれしているのに中心部はまだ生煮えないことがあります。強火で加熱して、煮たってからも中火にしないでいると、そんなことになります。

*.圧力釜は柔めに、砂糖は固めにする
 圧力鍋を使うと、蒸し器を使ったときよりも軟らかくなります。この原因は、硬化しやすい60℃付近を一気に通るためか、加圧でジャガイモのペクチン質の水溶性ペクチンの割合が多くなることと関係があるのでしょう。
 次に、添加物の関係を見てみますと、
 水煮するとき、始めから食塩を添加すると、柔らかくなります。 これに対し、砂糖は添加時期が早いほどジャガイモを硬くし、酢酸にあっては加熱当初に添加すると硬くなるが、添加の時期が遅くなるにつれて硬化する効果はなくなってしまいます。(晴山克枝「家政学雑誌」1985年vol.36、11)

*.「肉じゃが」の煮くずれを防ぐ方法は
次の3つの方法があります。
1.調味料を入れる前に「バター」を入れて溶かすだけ。たったこれだけで、肉ジャガが煮崩れしなくなる。
2.『あとは煮込むだけ』という段階で、梅干を入れます。ジャガイモ5つに対して、梅干3個が目安です。梅干に含まれるクエン酸が、ジャガイモのペクチンをゼリー化させるために煮崩れしない。ペクチンはジャガイモだけでなくほとんどの野菜に含まれているので、カボチャやサトイモの煮物、カレーを長時間に込むときなどにもこの裏ワザを活用できるます。
3.肉ジャガを2/3ほど煮たとき(つまり、まだ煮くずれしていないとき)に鍋を保温釜に移すか、鍋を布か新聞紙で何重にも覆い、適時放置しておくと硬化現象により煮くずれが防止できます。冷めたときは少し暖めていただきましょう。

*.「キタアカリ」は粉質、「ニシユタカ」や「さやか」は粘質
 「キタアカリ」水煮塊茎の肉質はやや粉質です。澱粉を多く含む細胞層が表皮に近い部分に多く、しかも澱粉の膨潤により細胞が球形となり、細胞同士の接着力が弱くなりやすいため、煮くずれの程度は「男爵薯」よりやや多い中です。舌ざわりはやや滑、水煮黒変はありません。食味は「男爵薯」並です。肉色が黄色であり、2,3月になると、「ワセシロ」同様に、糖から生成水を生ずるためか、急に粘質を増すため、業務用には使い難い。
 塊茎の中心空洞、褐色心腐は「ワセシロ」同様にほとんど見られません。 用途は、つぶしサラダ、粉ふき、スープ、皮つきベークドポテト、蒸し、などのそう菜に向いており、「ワセシロ」などと同様に電子レンジ加熱でもおいしく食べれます。

 ジャガイモの硬さの測定はレオロメーター又はカードメーターで行われます。

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