肉の褐変、チップスの褐変

***剥皮後褐変、チップスカラー***

 リンゴの皮を剥いて出されたものをしばらく放置していたら、表面が褐変してしまったという経験がありましょう。この変色を避けるため、来客の際は、皮をむいてから薄い塩水をくぐらせてから皿に盛られます。ジャガイモ料理の際にも皮を剥いてから一時水に入れています。
 この変色の原因は、リンゴやジャガイモの細胞の中に含まれているポリフェノール類にあります。そしてこのポリフェノール類を酸化型のキノン類に変える酵素・ポリフェノールオキシダーゼの仲間も含まれていて、発色に一役かっています。
 ジャガイモの皮を剥くと、切断面の細胞が壊され、部屋の空気に直接さらされることになります。酸素の多いところでアミノ酸の一つであるチロシンという物質がチロシナーゼという酵素の働きでメラニンという黒い色素に変わってしまいます。チロシナーゼは水に溶けますので、長時間水にさらすと酵素がなくなってきますので、その後ですと、空中の酸素と出会っても褐変しなくなります。(『酵素的(剥皮)褐変とその防止』へ)
【注.チロシンは脳でドパーミンに変化し生体機能を高揚させるもの】

 ポリフェノール類として知られるクロロゲン酸は、サツマイモ、ヤマイモ、レンコン、ウド、ゴボウなどにも含まれています。皮を剥いだり、切ったりするとどれも空気中で酸化反応を起こし、黒ずみ(褐変)がみられます。 酸化反応を妨げるため、切ったり、皮を剥いた後、水とか薄い酢水につけておくことが多い。
 ベンゼン核やナフタリン環にOH基が2個以上ついたものをポリフェノールといい、多数の化合物が含まれます。人間の体内に病原体を撃退する免疫抗体があるように、植物にも同様のものが存在しています。それがそのポリフェノールです。多くの果物は外皮に含んでいて、たとえば茎葉などが傷ついた場合、害虫や菌類の侵入を防ぎ、速やかにその傷を治す働きをしています。
 平成の赤ワインブームのきっかけとなったのは、ワインが「ポリフェノール」を含むため抗酸化作用があり、しかもガンの予防にも役立つというものでした。動物性脂肪をたくさん摂る欧米先進国型の食生活が、生活習慣病の原因となっいますが、唯一の例外がフランスであり、肉の消費が多いにもかかわらず心臓病やガンでの死亡率が低いことから、『フレンチ・パラドックス』と呼ばれて注目されました。フランスでは日本人の約6、70倍も飲んでいるそうです。酸素は私どもの生命維持にとって重要なものですが、鉄が錆びるように、危険な存在になることもあります。体内で生ずる「活性酸素」は人間などの組織の老化に影響していて、ガンや心臓血管系の疾患が引き起こされると言われています。そして、抗酸化物は、細胞内でこの有害な酸素との反応を防ぐものです。
 剥皮褐変(ポリフェノール)の多少に品種間差があります。「男爵薯」は多いが、少ないものからおよそ次のようになります。  ホッカイコガネ、ムサマル<メークイン、ワセシロ、トヨシロ<キタアカリ、とうや、アトランチック<マチルダ『男爵薯』
 消費者、特に関東で人気のある 『男爵薯』 はこの剥皮褐変(酵素褐変)が多いため、ホクレンではこれを改善した『ホワイトバロン』を育成ししました(官報告示平成9年12月18日)。
 いっぽう、酸化による褐変を積極的に利用する料理もあります。ホットケーキやパンの外皮、みそ、醤油の褐変がその例です。アミノ酸と糖が同居したとき、加熱するとメラノイジンという物質ができ、これが褐色を示します。この反応は発見者にちなみ「メイラード反応」(*注参照)と呼ばれています。これは色、味などに関係し、カステラもこの反応を積極的に活かした例と言えます。
 ポテトチップスの場合も原料の糖が品質を左右します。塊茎の萌芽を抑えて長く保管するため低温下に置かれるなどによりグルコースのような還元糖が多いと、チップスカラーが褐色を呈し、黄金色にはなり難い。元来還元糖の多い「メークイン」とか、九州などで台風前に未熟なジャガイモを収穫してしまうなど、まだ澱粉にならない還元糖が多いものは、油で揚げてもいいものにはなりません。
 ジャガイモは茎葉が黄変して、皮が剥けなくなってから収穫したものであれば、ポテトチップスやフレンチフライに最適です。

*注)メイラード反応,アミノカルボニル反応, メラノイジン反応
[英:Maillard reaction、aminocarbonyl reaction、melanoidine reaction、独: Aminocarbonyl Reaktion]
 アミノ酸と還元糖との混合水溶液を加熱するとき生ずる褐変現象を言います。
 反応の名前は、発見者であるフランス人L.Maillardからとったものです。この反応は非酵素的褐変反応(英browning reaction), メラノイジン(形成)反応などとも言われています。
 なお、アミノカルボニル反応は、狭義にはメイラード反応をさしますが,広義にはアミン類をも含めたアミノ化合物と糖のほかに.カルボニル化合物およびレダクトンとの間に起こる褐変現象も含んでいます。
メイラード反応はアミノ酸、ペプチド、タンパク質のアミノ基と糖の配糖体形成能を有する水酸基との間に起こる反応と定義されています。 この糖アミノ縮合反応を第一段階として,次いで分解反応を生じ、種々の反応活性なカルボニル化合物やレダクトンを経て含窒素褐色物質が形成されるもの。 これは腐植類似物質でメラノイジンとよばれます。 この反応はカステラ、乳製品、果実、果汁、 みそ、醤油、ミリンなどの食品に関係が深く,褐変化をはじめカラメル臭の発生、溶解度の低下、還元価の増加、二酸化炭素の発生、アミノ酸の減少、栄養価の低下などを生じます。
人間の体の構成成分も食品成分と類似しているために、近年ではこのメイラード反応が生体内においても起こることが証明されています。その反応が老化や糖尿病や動脈硬化などの成人病とも関連しているので、食品と生体の境界領域を占める研究がなされつつあります。
   メラノイジンはin vitroでは抗酸化活性・活性酸素消去活性・発癌物質であるヘテロ環アミノ化合物に対する脱変異原活性などを有し、三次機能を発現する食品成分として考えられています。(藤巻。外)下図はメイラード反応経路(早瀬ら)。


ホームページ<スタート画面>へ戻る