「インカのめざめ」、「インカレッド」、「インカパーブル」の塊茎と特徴ある肉色の分布。
独立行政法人農業技術研究機構北海道農業研究センター(旧北海道農業試験場)
ばれいしょ育種研究室(0155-62-2721)提供資料外による

ジャガイモ品種

「インカのめざめ、島系575号」(アンデスの栗じゃが)

(1)来 歴
 北海道農業試験場(ばれいしょ育種研究室。現芽室町TEL.0155-62-2721)で、1988年に「W822229-5」を母、「P10173-5」を父として交配し、2002年に種苗登録申請されたもの(種苗法による品種登録番号ばれいしょ8635号。農林登録はない)。通常のばれいしょ(4倍体、S. tuberosum)とは異なる2倍体の品種であり、S. phurejaの血が1/4,S. tuberosum ssp. andigenaの血が1/2入っています。原産地アンデスの栽培種で高価なごく小粒のばれいしょを日本の環境条件(長日条件)でも栽培できるように品種改良したもので、「アンデスの栗じゃが」と呼ばれたりします。育成者は、「インカレッド」、「インカレッド」、「インカパープル」を『カラフルポテト3兄弟』と呼んでいます。登録番号・ばれいしょ農林44号
(2)地上部特性
 茎は短くて細く、緑色で基部が紫色を帯び、分枝は少ない。地上部全体が小さく、草型はやや開きます。葉はやや小さく濃緑、葉縁は波うちます。花色は淡紫で形は桜の花を連想します。落蕾が多く、花数は少ないが、ごく稀に結実します。茎葉の枯凋は「男爵薯」や「ワセシロ」より早く、極早生です。ウイルスに罹病しやすく、ごく明瞭なモザイク症状などを呈します。疫病には「男爵薯」並みに弱く、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性もありませんが、粉状そうか病や暖地でみられる青枯病には抵抗性があります。
(3)地下部特性
 ふく枝は短く、いもは密に着きます。いもは平均一個重が50〜70gと小さく、形は卵形で、目は浅く数が少ない。表皮は滑らかで、皮色は黄褐色、目の周囲に紫の着色があるものが多い。肉色は橙色に近い濃黄色で、「キタアカリ」などのこれまでの黄肉品種より黄色が濃い。
 内部異常はほとんどないが、Lサイズ以上(疎植しないかぎり、このサイズにはほとんどならない)にするとみられます。
 澱粉価は「男爵薯」程度です。収量は「男爵薯」より劣り、低い。密植では増収効果が高い。
休眠はごく短く、茎葉の黄変後1ヶ月ほどで芽が動きます。
 休眠があけた直後の若齢塊茎を植えると(秋から冬にかけての種いも栽培が必要となる)、茎数が減り地上部は旺盛となり、一個重が増えて増収します。
<品質>
 肉質は中からやや粘質で、舌ざわりはごく滑らかです。
 剥皮褐変、調理後黒変はなく、調理後も鮮明な濃黄色を保ちます。
 蒸しいも(ベイク)の香りが強く、ナッツや栗に似た独特の風味があり、くせがあるが、食味は上で「栗」、「さつまいも」或いは「洋種かぼちゃ」に似ていると評する人が多い。
 煮崩れが少ないので煮物に適し、油加工時の褐変も少ないのでポテトチップスやフライドポテトにも向きます。独特の肉色を生かしたお菓子材料(アイスクリーム、ケーキ、甘納豆等)にも適します。
 低温貯蔵時は油加工時の褐変の元となる還元糖の上昇は少ないものの、蔗糖(スクロース)の増加が著しく、春先にはさつまいもに近い甘さに達します。このときの肉質はやや粘となり、独特の風味や甘さを生かした菓子材料に適します。
 グリコアルカロイド含量は低く、曝光によっても増加が少ない。
 濃黄肉はアントシアニン色素ではなく、カロテノイド色素に由来し、「キタアカリ」の約7倍も含有しています。
(4)栽培上の注意
 地上部が小さいので10a当たり4,500株以上の密植が適します。
 疫病は、極早生のため回避できる年もありますが、罹病しやすいので注意します。そうか病には弱く、粉状そうか病には強い。また暖地で発生する青枯病には強い。
 塊茎の内部異常はLサイズ以上で起きるので、疎植でむりに一個重を増やすことは適しません。
 休眠が短いので黄変後は時期をずらさず収穫し、保存する場合は、表皮が落ち着いてから冷蔵保存(4〜6℃以下)する必要があります。(普通に栽培すると収穫直後から芽が伸びてきて扱いが大変です。ホクレンではCA貯蔵により芽の出方を遅らせています。)
 ウイルス病にかかりやすいので、種いもの自家増殖は絶対に行わないようにで下さい。
 【付記】水泳平泳ぎの北島 康介(きたじま こうすけ、1982年9月22日 - )選手の実家は東京・西日暮里で精肉店「北島商店」を営んでおり、コロッケやメンチカツを扱っているお店ですが、ここでのヒット商品は北島選手の大好きなメンチカツと「インカのめざめ」のフライドポテトだそうです。


「インカのめざめ(島系575号)」の塊茎。肉は特徴のある濃い黄色。

左:花と一見ウイルスかと思われる凹凸の葉、右:休眠の短い塊茎


ジャガイモ品種

「インカのひとみ」(北海93号)

  −カロテノイド系色素を含有する橙黄肉で良食味のばれいしょ品種 −
育成のねらい
 橙黄肉の品種として「インカのめざめ」が育成されているが、極早生で、収 量性が低く、休眠期間が短すぎるなどの欠点があることから、これらの改善を ねらって育成されたもの。 品種名は、これがカラフルポテトのインカシリー ズに属し、いもの皮が赤を基本としているが目の部分のみ黄色で、めがねか瞳 のように見えることからつけられたもの。
来歴
 旧農林水産省北海道農業試験場(現(独)農業・食品産業技術総合研究機構  北海道農業研究センター)のばれいしょ育種圃場において平成7年に採種した 「インカのめざめ」の自然受粉種子の中から選抜された品種です。2006年に 「インカのひとみ」と命名登録され、種苗法に基づく品種登録を申請してい る。 登録番号:【農林】ばれいしょ農林58号。 (2006.10. 4)。 【種苗 法】出願公表 第20105号 (2006.11.17)
特性の概要
 枯凋期は「インカのめざめ」より10日程度遅い早生です。 茎長は「男爵 薯」よりも長く、茎は細い。そう性はやや開張しています。
 花色は赤紫系、2次色は白が星形に分布し、開花数は少なく、自然結果は稀 です。いもの形は倒卵、皮色は淡赤、目の周囲が黄褐し、目の深さは浅く、肉 色は橙です。
 収量は「男爵薯」よりも少なく、「インカのめざめ」よりもやや多い、いも は「インカのめざめ」よりやや大きいものの極小に属します。休眠期間は「イ ンカのめざめ」並の極短のままです。澱粉価は「男爵薯」よりやや高く、「イ ンカのめざめ」より低い。
 カロテノイド系色素は「インカのめざめ」よりやや多く、生いも1kg当たり 7.7μg含み、良食味であり。調理用で、サラダ加工原料にも使えます。
 水煮による煮くずれの程度は「インカのめざめ」並と少なく、調理後の肉質 はやや粘です。チップの褐変程度は少、フライの褐変程度は微です。低温貯蔵 しますと還元糖、ショ糖ともに増えて甘味を増してきます。  疫病、Yモザイク病には「インカのめざめ」同様に弱く、そうか病及び塊茎 腐敗には“中”程度の抵抗性を持っています。ジャガイモシストセンチュウ抵 抗性は持っていません。
 塊茎の生理障害は、中心空洞及び裂開、二次生長の発生は無、褐色心腐の発 生は微です。
 いもが小さいので、切断しないでそのまま植えるほうがいい。収穫も掘り残 しや、ロッドからの落下を少なくする注意が必要です。休眠期間が短いので、 茎葉が黄変したら速やかに収穫し、低温で萌芽を抑えるようにします。線虫抵 抗性はないので、汚染された畑での栽培をさける。


ジャガイモ品種

「インカレッド」

登録番号・ばれいしょ農林46号。
 北海道農業試験場で、北海道立根釧農試育成の系統「KW85093-33」を母、「島系284号」を父として交配・育成。日本で初めての赤肉品種。倍数性は一般栽培種と同じ4で、晩生。草型は直で、丈はよく伸びる。いも数はやや多く、大きさは「男爵薯」並、収量は「男爵薯」よりやや低収。形は楕円、目は浅い。皮色は淡赤、肉色は外髄が黄白で、大部分を占める内髄部は赤です。澱粉価はごく低く、水煮しても煮崩れしなく、やや粘質で、フライには適さない。味は淡泊でフキを茹でたような風味があります。水煮や蒸しにより加熱しますと、色調がくすみ退色しますが、放冷しますと色調が戻ります。 剥皮後の酵素的褐変は微、水煮黒変は「男爵薯」並の中。生いも100g当たり142〜180mgのアントシアニン(ペラニン)を含み、その抗酸化力はα-トコフェノールよりも強く、BHAやBHTに匹敵する能力をもっています。
 ジャガイモシストセンチュウ抵抗性はなく、粉状そうか病にも弱い。ジャガイモYモザイク病に感染・保毒しやすく、無病徴なので、周りのジャガイモ栽培への悪影響が心配される。作付け面積は2006年がピーク(36ha)で、後続の品種に置き換えられた。
種苗登録番号8551号(2002年)。問い合わせ先和田製糖、北海道農研センター(河西郡芽室町)。
 休眠は長い。


ジャガイモ品種

「インカパープル」

登録番号・ばれいしょ農林45号。
  1990(平成2)年北海道農業試験場で北海道立根釧農試育成のアンディジェナジャガイモ[S.tuberosum ssp. andigena]に由来する亜種間雑種系統「KW85091-21」を母、「島系284号」を父として交配・育成。
 倍数性は一般じゃがいもと同じ4で、初期生育はやや劣り、茎長は伸びる晩生。草型は直、花は大きく色は紫、自然結果は稀。芋の着生はごく疎。いも数は少なく、大きさは「男爵薯」より大きめだが小に属します。収量は「男爵薯」程度で低い。澱粉価は高いが、やや粘質で、煮くずれは「男爵薯」より少なめの中。水煮黒変や油加工適性は「男爵薯」並、食味中。形は楕円、目は浅い。褐色心腐が見られる。
皮色は淡紫なのが特徴。剥皮褐変は「男爵薯」よりやや少なく、逆に水煮黒変はやや多い中。肉は外髄が黄白、内髄部は紫で、生いも100g当たり148mgのアントシアニン(ペタニン)を含み、その抗酸化力はα-トコフェノールよりも強く、BHAやBHTに匹敵する能力をもっています。アントシアニン含有量は「キタムサキ」や「シャドークイーン」より劣ります。
 疫病や粉状そうか病には強い。休眠は極く長いが「ユキラシャ」より短い。
現在、後続の品種に置き換えられています。


 <<オレンジポテト>>
 アメリカでは、『インカのめざめ(島系575)』の数年前、ワシントンの試 験畑で、アンデスからの導入種との交雑種の中から肉色がカンタロープ(マス クメロン)かトウモロコシに似たジャガイモを発見しています。この黄色はゼ アザンチンとルテインという色素により発現しているものです。ゼアザンチン はその名がトウモロコシの学名Zea maysに由来していることからも判る通り、 黄色のカロテノイドの一つで、ホオズキとか卵黄にもあるものです。また、ル テインも同じカロテノイドの一種で、秋の黄葉中にあり、緑葉中にもベータ・ カロテンとともに多量にあります。『島系575号』は体内で活性酸素消去能 が高いとされるゼアキサンチンを『キタアカリ』の数倍含んでいます。
 米農務省プロッサー研究所の遺伝学者チャールズ・ブラウンは、この二つの カロテノイドの栄養的価値は知られていないが、今後の研究によりその効用が 解明されるであろうと述べています。このポテトを直接、あるいは親として使 用し、差別化商品として使うことが可能です。セールスポイントのオレンジな いしサツマイモ色は、これに近い化合物(例えば、ベータ・カロテン、ビタミ ンC)は、がんの発病を防いだり、抑制するのに役にたつことが知られている ものです。


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