ジャガイモの出てくる 映 画  第33集

浅間和夫

331.『スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする』 (原題:Spider)
 2002年、フランス・カナダ・イギリス映画。監督:デヴィッド・クローネンバーグ。
 統合失調症を抱えた主人公デニス・クレッグ(レイフ・ファインズ)はロンドンのとある駅に降りた。、社会復帰ができるまで患者を預かるという施設のウィルキンソン夫人の家に世話になることになった。デニスは、少年時代糸を張り巡らせる蜘蛛の話が大好きで、母からスパイダーと呼ばれていた。それが映画のタイトルとなっている。
 彼は鞄の中にノートを持って来てきており、さらに街を彷徨いながら自分の過去を回想し、終始ブツブツつぶやき、ノートに少年時代の思い出について書きつづっている。映画は主人公と過去の出来事とが交互に描かれる。回想の中に現在の主人公が傍観者として登場する。
 少年時代、配管工の父親(ガブリエル・バーン)はパブに足しげく通い、そこで知り合った娼婦と不倫関係に陥って、愛人と共に母を殺していたようだった。その後浮気相手が家に転がり込んでくる。まるで母親のような振る舞いにスパイダー少年は怒りを隠せない。そんな最悪の出来事を思い出した男は、交錯する現実と幻想に、彼の記憶の真実が揺らぎ始める。浮気の現場を見られた父親が衝動的に殺したのかと思ったら、実は少年が不要な女を...。記憶はいくらでも書き換えられるものである。地味で狙いが解りにくく、心に重くのしかかる映画になっていた。蛇足ながら日本語タイトルにある蜘蛛にキスするシーンは見られない。

 原作はパトリック・マグラー。脚本もマグラーの手によるも。その当初の脚本には、切ったジャガイモから血が流れるという描写があった。しかし、クローネンバーグ監督はグロテスクな映像が得意であるが「露骨な見せ方の妄想の世界ではなく、焦点を絞ったリアルなものを」目指すためにカットしたそうだ。ジャガイモから血が流れる場面が一つあると監督のイメージするものから離れるのを警戒したらしい。

332.『ふたりの旅路』 (原題:Magic Kimono )
 2016年、ラトビア・日本合作映画。監督:マーリス・マルティンソーンス。  ”新しい北欧”として注目を集めるラトビアの”バルト海の真珠”と讃えられる首都・リガと、その姉妹都市にあたる兵庫県神戸市で撮影された。両国初共同製作映画。
 交通事故で娘を失い、そのすぐ後の阪神・淡路大震災で夫(イッセー尾形)が行方不明になり、20年間孤独な日々を過ごしてきたケイコ(桃井かおり)がいる。彼女が着物ショーに参加するため、隣人に庭の木の世話を頼み、リガを訪れる。ケイコは会場で、ある男の姿を目撃する。その後、リガで雑誌を出版し、和食レストランを経営する予定のロベルト(アルトゥールス・スクラスティンス)と通訳のリタに出会いラトビア人が誇りに思っているルンダーレ宮殿に案内してもらう。そこでも男の姿を目撃するが、目に入らないようにやり過ごす。その後も様々な場面で出没する男に邪険な態度をとり続ける。
 ある日、市場でテレビ番組のプロデューサーにあう。ケイコに出演交渉をしてくる。ケイコは言葉が分からないまま頷いており、承諾したことになってしまう。ケイコは予想外の出来事に困惑する。
 昔ケイコが総てを失ったとき、ボランティの人がおにぎりを渡してくれた。ケイコはそのおにぎりを食べて「おいしい」と感じ、生きる気力を取り戻したのだった。そして、毎食おいしい食事を食べることを心に決めてきたのだった。料理対決が行われ、ケイコはラトビア人の料理人と共に料理を作った。その時、ジャガイモの皮まで料理に使ってしまう。収録が終わった後、ケイコはケチ臭いと思われたのではないかと心配し、落ち込む。ホテルで携帯が鳴り、テレビを点けると番組が放送されており、ケイコが作った方の料理が勝っていた。
 その後、ケイコはロベルトのレストランを訪れる。そこで、男と会う。ケイコは目の前にいる男が、夫であることをついに受け入れる。すると、夫はもう消えなければいけないことを告げる。そして娘のアキコが肌身離さず持っていた鶴の折り紙をケイコに贈り、悲しい別れに...。

 料理の際、皮として包丁で切り捨てられる部分には、中心部に比べて、でん粉が多い。このことは煮てみると外側が崩れやすいので、すぐ判る。この外、目に見えない蛋白質、リボフラビン、ビタミンB6、造血作用剤として知られている葉酸やミネラルも多い。
 「男爵薯」の導入者で知られる川田竜吉男爵も、かって姪あての手紙で、グラスゴー滞在中の夜分に車に釜をのせ、皮つきのままのジャガイモを焼きがらホキーポキー、々と言って売っているとか、皮は薄く剥いでいることを書いてい。多分『大切なのはカワダょ』と言いたかったのかも。

333.『プライド&グローリー』 (原題:Pride and Glory)
 2008年、アメリカ映画。監督:ギャヴィン・オコナー。
 ニューヨーク市警察に勤めるレイ・ティアニー(エドワード・ノートン)刑事は、過去のトラウマが原因で現場から長らく遠ざかっていたが、警察高官の父フランシス・Sr(ジョン・ヴォイト)の命令で現場に復帰することになる。彼が特別捜査班を指揮することになった事件は、麻薬取引現場を市警察が取り押さえようとした際、相手の反撃によって警官2名が殺害され、残り2名も重体となる。
 警官からマークされるのは極悪チンピラで麻薬売人・エンジェル・テーゾ(ラモン・ロドリゲス)。その演技もいいが、いも屋の筆者にとっては、銃口にジャガイモを差し込んでサイレンサー代わりに使う【写真*】という斬新な応用技術に目が行ってしまう。枕やクッションで銃声を小さくするのはたまに見聞するがこの手法は初めてである。
 レイが生まれたティアニー家は、警察高官の父、警察分署長の兄フランシス・Jr(ノア・エメリッヒ)、そしてその兄の部下である義弟のジミー(コリン・ファレル)といった警察一家であった。レイは警察内部に麻薬組織の内通者がいると睨み、捜査を開始する。だが、義弟であるジミーこそが内通者であり、裏で汚職を行っているという事実があり、署長である長男・ジュニアは、義弟故にかばおうとして抜き差しならない事態になってしまい。息子達を正しく導かねばならない要職ポストの父は、組織の建前の板挟みになる。レイも、警察と家族との間で葛藤していくが、結局主役兄弟のパブでのケジメの付け方は、殴り合いとなるなど、アクション映画としも結構楽しめ、奥深い人間ドラマと演技派揃いで固めたハードボイルドなドラマでもある。 【写真*:ラモン・ロドリゲスが手にするサイレンサー】

334.『愛はポテトではない』 (英題:Love is not a potato)
 2013年、ロシアのテレビドラマ。監督:ヴァレリー・ウスコフ。
 映像は拝見していないが、週末の夜に家族と一緒に見るのに最適なテレビドラマらしい。愛とはとか、反戦についてとか真剣に考えさせるのではなく、テレビ画面の前でリラックスすることを願い、シンプルでロマンチックなメロドラマのようである。
 舞台は美しい農村。ある高齢でお金が必要な女性がおり、その甥は家の売却を勧める。そんな時新興財閥オリガルヒとの結婚を望んでいる娘リサの出番となる。村にはそんな絵に描いたような相手がいない。都会の金持ちにじゃがいも二袋で結婚しないかと求婚しようとするらしい。
 これを載せることとしたのはこの話と写真の撮り方で大きなジャガイモ、それもハートの形のしたものがあったためである。画像は、
https://wikitranslate.org/wiki/Love_is_not_a_potato から転載したもの。
 ロシアの格言 Potatoes have many "eyes." Love is blind.と言うのがある。ジャガイモ塊茎にはたくさんの目があるが、人の愛には目がひとつしかなく、盲目に近いことを言っているのではないかと思うが、このドラマに流れているのはそのことかも。

335.『マンマ・ローマ』 (原題:Mamma Roma)
1962年、イタリア映画。監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ。
 ヴィヴァルディの協奏曲をテーマ曲に、元娼婦の悲劇的な運命を描いた切ない親子の愛の物語。マンマ・ローマ(アンナ・マニャーニ)は田舎に放ったらかしにしていた16歳の非行息子エットレ(エットレ・ガロファーロ)を引き取ってローマへと連れて行く。一緒に暮らすため売春婦稼業から足を洗い、息子にはカタギの人生を送って欲しいと奮闘するが、昔のヒモのカルミネが現れて金をせびる。売春婦の過去を息子に知られたくないマンマ・ローマは再び体を売ることになる。教会で見かけたレストラン経営者に目をつけ彼の弱みを握って、息子をウェイターとして働かせることに成功する。さらにいいとこのお嬢さんと結婚させようとするマンマ。母親のそんな思いも知らず息子は8つ上で子連れのブルーナの導くままに恋路を歩んでいく。それを知ったマンマは「あんな女なんか相手にして!」と憤懣やるかたなく、エットレがブルーナを訪ねようとすると「お前はまだ女なんか相手にするガラじゃないよ!」と、彼の恋路を否定しようとする。そして息子を盲目的に愛するあまり、友達の娼婦を息子に嗾(けしか)けたりする。
 息子を上流階級の仲間入りさせることを夢見ているマンマの収入は乏しい。マンマはローマの下町市場に屋台を開き、果物を売っているシーンに出会う。その客寄せの声はヴォリーム最大に怒鳴るものであり、隣のジャガイモ売りもウンザリする。おおらか性格も見え、けたたましい笑いと嗚咽まじりの涙があり、庶民のバイタリティに満ちあふれている。夜鷹のボスとして颯爽と夜の街を歩く姿も出てくる。
 中盤に母子がハ゛イクでドライブするいいシーンもある(画像)。いろんな母の愛情が注がれる中、息子は不良仲間とつるみ、高熱と苛立ちから、盗みを強行して逮捕されてしまう。監獄で熱にうなされて暴れ出した彼は、一晩中拘束寝台に縛り付けられ、母に詫びながら息を引き取る。息子の死を聞かされ、呆然とするマンマ・ローマの眼差しの先にあるのは、世の底辺から眺めた都市ローマの空虚な風景だった。

336.『ヒトラー 〜最期の12日間〜』 (原題:Der Untergang、英題:Downfall)
 2004年、ドイツ・オーストリア・イタリア映画。監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル。
 時は1945年4月、つまり第二次世界大戦末期。ベルリン市街戦を背景に、ドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラーの総統地下壕における最期の日々を描くもの。
 空路でソ連軍の包囲網を突破したグライム将軍と空軍パイロットのハンナ・ライチュが地下壕に到着し、ヒトラー(ブル−ノ・ガンツ)は感激するが、ヒムラーが連合軍と和平交渉を行っているという報告が入ると激怒する。
 29日未明、ヒトラーはエヴァ(ユリアーネ・ケーラー)と結婚式を挙げ、ささやかな祝宴を開く。
 ベルリン中心地には砲撃がブチ込まれ、ナチスドイツは負けが予想でき、ヒトラーは「最早ベルリン脱出以外に生き延びる術はない」と進言され、市街地で負傷者の治療に当たっていた軍医のシェンクとハーゼ教授を呼び出し、自殺方法について相談する。
 30日、ヒトラーは地下壕に残った人々と別れの挨拶を交わし、名誉の?自殺をするためにエヴァと共に居室に入る。総統個人秘書官が宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルス(ウルリッヒ・マテス)の子供たちと食事中に銃声を聞く。翌日、地下壕の人々はベルリン脱出の準備を進め、ゲッベルス夫妻は子供たちを毒殺した後、自分たちも自殺し、脱出する人々を見送ったクレープスとブルクドルフは共に拳銃自殺する。そしてソ連軍に包囲されて降伏するもの、包囲網を脱出し、無事に逃げ延びるものもでる。
 結局、5月8日、フレンスブルクに遷都したドイツ政府は連合国に対して無条件降伏を受け入れ、ドイツは終戦を迎える...。原題はドイツ語で「失脚」「没落」の意である。

 敗戦が濃厚な一般兵士はどこでどう死ぬかは選択できないが、地下壕のナチズム思想を心から信じた者は、共に殉ずる覚悟に憑りつかれているここの軍人は、服毒や銃自殺など選択できた。死を待つしかない高官たちが、テーブルに多量の無着色の酒を置きがぶ飲みしているシーンがある(写真)。こんな時に飲む酒は度数の低いワインやトイレ通いの大変なビールではなく、アクアヴィットであろう。アクアヴィットとは、ドイツの他スウェーデン、デンマーク、ノルウェー等で作られているお酒であり、その原料はジャガイモ。これを酵素や麦芽で糖化した後に発酵させ、蒸留する。名前はラテン語の「aqua vitae」すなわち「生命の水」を意味する言葉が変化したものである。適量飲めば薬にもなるものである。国産でこれに近いものでは北海道のでん粉の多い品種「コナフブキ」を使った知床に近い清里焼酎醸造所の『清里』、『北緯44度』、『浪漫倶楽部』とか長崎県平戸市の福田酒造の『じゃがたらお春』が知られている。

337.『心に吹く風』 (英題:The Wind in Your Heart)
 2017年、邦画。監督:ユン・ソクホ。
 韓流ブームの火付け役となった韓国のテレビドラマ「冬のソナタ」のユン・ソクホ監督の記念すべき劇場用映画第一作であるが、2012年にチャン・グンソク出演のドラマ「ラブレイン」で、旭川・富良野・美瑛で撮影したともある。  ビデオアーティストのリョウスケ(眞島秀和)は友人の住む北海道・富良野の郊外を訪れ、作品作りに励んでいた。ある日、乗っていた車が故障し、携帯電話も宿舎に忘れてきてしまったため電話を借りに、通りがかりの家に立ち寄る。ドアを開けたのは、高校時代の元恋人・春香(真田麻垂美)。20年ぶりの再会を果たす。春香は既に結婚して娘もいたが、春香をずっと想い続けていたリョウスケはビデオ撮影に誘う。春香は戸惑いながらもリョウスケに同行し、忘れかけていた想いをよみがえらせていく。失った時間を取り戻すように急接近していく2人は、ついに越えてはならない一線を越える決意をするが…。
 主演の眞島秀和は「ボクの妻と結婚してください。」で、真田麻垂美は「月とキャベツ」で知られている。本映画の東京公開のとき、撮影監督を務めた高間賢治のトークが新宿武蔵野館で行われた。その時、真田麻垂美も次のように語っていた。
 『北海道は大好きで、これまで函館や札幌を訪れていました。撮影初日、大雨の東京から飛行機で旭川に着くと、真っ青な空と美しい新緑のグリーン、牧場の牛! 「ここで撮影できるんだ」と、気持ちがワクワクしたのを覚えています。撮影の合間にいただいたアスパラガスやジャガイモがとても美味しくて、幸せな時間でした。』
 撮影は春に行われたので、まだジャガイモの開花前。真田が美味しいと食べたジャガイモは市場で“ひね”と読んでいる越冬して甘みを増した完熟ジャガイモと思われる。

338.『現金(げんなま)に手を出すな』 (原題:Touchez pas au Grisbi)
1954年、フランス・イタリア映画。監督:ジャック・ベッケル。
 ギャングのマックス(ジャン・ギャバン)とリトン(ルネ・ダリー)は若い頃からの相棒であったが、初老にさしかかり、共にやくざ稼業からの引退を考え、最後の強盗で得た五千万フラン相当の金塊を隠し持っている。ところが、リトンの不注意で若い踊り子(ジャンヌ・モロー)に漏らしてしまう。
 踊り子が麻薬密売組織のボス・アンジェロ(リノ・ヴァンチュラ)の女であることを知らせ、自分たちはもう若くはないことを諭し、今後の対応策を練るためマックスの隠れ家で会う。ボトルの蓋をコンコンと叩いてからコルクを抜き、透明な酒(白ワイン"ミュスカデ"?)をコップに注ぐ。肴は紙袋から取り出したビスケットらしきものを細かくしてパテをナイフでたっぷり塗ったもの。ジャン・ギャバンはこのときもジャガイモのように渋い容貌で酒を飲む。彼は食事するときの演技が様(さま)になり、高倉健をして『食事の芝居はギャバンを見て勉強した』と語らせたほどである。
 しかしリトンは独断でアンジェロと対決し、拉致されてしまう。リトンの愚かさに苛立ちつつ、二人の腐れ縁を追想し、マックスは忸怩たる感慨に耽る。ほどなくアンジェロから、リトンと金塊の交換が持ちかけられてくる。金か友情かに迷ったものの、リトンを救うため、旧友・ピエロらと共に、隠匿していたサブマシンガンと虎の子の金塊を携え、取り引きの場へ赴く。リトンと引換えに金塊を受けとったアンジェロはその場で二人を射殺しようとし、烈しい車上の射撃戦となりが始まる。アンジェロの車は火を発して一命を失ない、金塊はふたたびマクスの手に戻ったものの、リトンは重傷、警官隊は刻々迫って来る。金か友情か、またしても迷ったマクスは、結局友情にひかれリトンを連れ、金塊を捨てて逃げのびることになる。しかし重傷のリトンはついに絶命してしまう。これは勝利と呼べるものなのか。蛇足ながら、原題の「グリスビーに触れません」はジュークボックスから聞こえるハーモニカの哀愁漂う「グリスビーのブルース」に関係があり、日本語訳タイトルは映画の中で語ることはない。

この映画にジャガイモは出てこない。ただ勝手にジャガイモが似合いそうな俳優としてジャン・ギャバンが出てくるため選択してしまったもの。ジャガイモと言えば愚直・ 剛毅・黙々・飾り気がない・美男とは遠いなどのイメージがあろう。 日本の俳優では日色ともゑが推す宇野重吉と思うが、Web知恵袋で問うたところ、チャールズ・ブロンソン(荒野の七人、大脱走=本シリーズno.1、さらばバルデス=本シリーズno.3)、 ピーター・フォ−ク(刑事コロンボ=本シリーズno.63、山田洋次が推す村田雄浩=本シリーズno.290、渥美清(男はつらいよ) 、「じゃがいも黄門」こと東野英治郎などもあがっていた。貴方なら誰? 宇野重吉と渥美清を同時に見たいなら『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』があり、宇野が日本画の大家・池ノ内青観役として出演している。

339.『はちどり』 (英題:House of Hummingbird)
 2018年、韓国・アメリカ映画。監督:キム・ボラ。
 1994年(7月に北朝鮮の金日成主席が亡くなった年)。14歳のウニ(パク・ジフ)は韓国ソウルの集合団地に暮らす中学生。学校になじめない彼女は、別の学校に通う親友と悪さをしたり、男子生徒や後輩の女子とデートをしたりして過ごしている。小さな餅屋を切り盛りする両親は、子どもたちの心の動きと向き合う余裕がなく、父は長男である兄のデフンにソウル大学へ行ってほしい一心で期待を寄せているが、デフンは勉強のストレスやプレッシャーを親に隠れてウニへの暴力で発散している。姉は自己評価の低さから逃げるように恋人と遊び惚けており、その尻拭いはいつもウニがしている。
 そのような大人たちに囲まれ、ウニは孤独な思いを抱えている。父権や長男主義が強い時代であり、母親は心を殺して生きている。そしてジャガイモのチヂミをよく作っている。これが彼女の“おふくろの味”であろう。
 ある日、ウニが通う漢文塾に、女性教師ヨンジ(キム・セビョク)がやって来る。飄々としているが落ち着いて自分の話に耳を傾けてくれるヨンジに、ウニは憧れ心を開いていく。ヨンジは、ストレスから出来た耳裏のしこりの手術で入院中のウニを見舞いに訪れるが、兄に殴られている事を告白してきたウニに「誰かに殴られたら黙っていてはダメ」と静かだが力強く諭す。  ある朝、聖水大橋崩落の知らせが入る。それは、いつも姉が乗るバスが橋を通過する時間帯だった。ほどなくして、ウニのもとにヨンジから一通の手紙と小包が届く。自分の話に耳を傾けてくれる彼女に、ウニは心を開いていくが…。
 写真は、北海道で見かけることができる最小の小鳥、雪の妖精「シマエナガ」である。「ハチドリ」は、もっと小さい小鳥であるが日本にはいない。生命や美、希望の象徴と言われている。小さな羽を懸命に羽ばたかせる姿は監督の少女時代と重ねたところもあるらしく、不安と温かさが共存した不思議な雰囲気の作品となっている。
 チヂミまたはチジミは『ウィキペディア』によると、韓国料理の一つ。様々な食材を溶いた小麦粉などと合わせ、油で平たく焼いた粉食。雨の日になるとチヂミを食べる俗習があるが、これはチヂミを焼く音と雨の降る音が似ているため。荒天時は買い物が面倒なため、家に常備した小麦粉で食事を調えるという意味合いもある。祭祀に欠かせない料理でもある。
 地方によってさまざまなチヂミがあるが、日本で一般的に知られるチヂミは薄く外側はパリっと、内側はもちっとした食感のものであり、タレにつけて食べる。日本では大抵の韓国料理店で供されるほか、食品スーパーで「チヂミの粉」が売られるなど、なじみ深い料理となっている。
 本Webでチヂミの出てくる映画としては、次のものがある。
163 『ペンギン夫婦の作り方』
195 『三食ごはん 山村編』

340.『アイドルを探せ』
 1987年邦画、監督:長尾啓司。
 同名の洋画もあるが、ここでは菊池桃子の初主演の映画を取り上げたい。この春高校を卒業した藤谷知香子(菊池桃子)は、初めての一人旅としてグアムに旅立つ。そこで中学時代に憧れていた氷江、永江の大学の先輩の岩田(竹本孝之)たちと知り合う。帰ってアパートで短大生暮らしとなるが、そこにはグアムのバスガイドをしていた千明やマンガ家志望の甘露寺恵(伊藤かずえ)もいて親しくなる。
ある日、知香子は岩田から愛を告白されるが、プレイボーイの永江に魅かれているので愛を受け入れることができない。岩田は父親が倒れたため、大学をやめて田舎に帰って行き、絵葉書をよこす。急に岩田に逢いたいと思った彼女は、永江に内緒でカンロと共に電車に乗った。その晩、アパートに戻ると、氷江が外で待っていた。その後のデートで、知香子は永江と一晩過ごすことを決心する。
そんな時、岩田の幼なじみという女性、笑子が知香子を訪ねて来た。岩田が来ているはずだと逆上している。現われた岩田は、もう一度知香子に逢って心の整理をしたかったというが、笑子は死んでやると飛び出す。それを追った岩田は二人で田舎に帰って行く。ショックを受けた知香子は、泣いて一晩を過ごす。翌朝、永江のマンションを訪ねるものの、歳上の女性と一緒の永江を認め雨の中を出て行く。バイクで追いかけた永江は傘を差しだすが、知香子は恋人にはなれないと彼から去っていくのだった。
 映画にジャガイモは出てこないが、両親が北海道生まれの菊池桃子について触れておきたい。2019年5月4日放送の『メレンゲの気持ち』(日本テレビ系)に出演し、久本雅美との対談で"ジャガイモが嫌い"ということを20年以上も子どもに隠していたことを告白したためである。 その告白に対し22歳になる長男、17歳になる長女は「お母さん、今までよく隠せてたね」、「『北海道のジャガイモ最高!』って言ってたじゃん」などと驚き。菊池は「ウソついてごめんね」と謝ったのだという。肉ジャガとかポテトサラダとかを食べたふりしていた、親の影響ってすごく大きいから、子供もそうなったらいけないと思って、その素振りを見せなかった、と。 子供から「ママ、芝居が上手い」って言われたとも語った。 久本はそれに対し「そんなところで女優魂、発揮してどうする」とツッコミを入れた。 


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