ポテトエッセイ第43話

ビタミンがいっぱい【ジャガイモ博物館】
 ジャガイモはビタミンCなどのビタミン類を豊富に含み、「美と健康の源」と呼ばれています。この生ジャガイモを、リンゴや御飯と比較してみましょう。
 B1(サイアミン)をリンゴの10倍、御飯の2、3倍も含んでいます。B1は、糖質を消化吸収し、熱や運動エネルギーにするために必要で、糖質を多くとる私ども日本人に多く必要とされています。この不足で脚気になることはよく知られているのですが、そうなる前の症状としては、肩こり、食欲不振、便秘、疲労、筋肉痛、血圧の低下、脈数の減少などいろいろあります。
 B2(リボフラビン)はリンゴや御飯の3倍含んています。これも日本人の食生活ではとり方が少ないといわれています。B2には生長促進作用があるほか、皮膚や粘膜の生理と深い関係があります。その不足で口角炎、舌炎、耳、鼻、目の周囲に皮膚炎を生じたり、体力減退や老衰が早くおこりやすくなります。
 水溶性のビタミンB複合体の一つであるパントテン酸も、御飯やリンゴの3倍以上含んでいます。これが不足すると、低血圧、脈数の増加、食欲不振、インシュリン過敏症、抹消神経炎などが起こってきます。
 第二次世界大戦のおり、フィリッピンのマニラ軍病院で発生した焼足症状の原因はこの不足にありました。日本軍に白米を食べさせられたアメリカ兵に居眠りが多くなり、足の先がしびれ、チクチク焼けるように痛むものです。パントテン酸は、胃腸の粘膜強化に必要とされています。このため、胃潰瘍やストレスに悩む人にプラスとなったり、また、頭痛、肩こり、冷え性などにも効きます。
 豊富なビタミンB群はアルコールを分解する時肝臓の働きを助け、悪酔いや二日酔いを防ぐのにも役立ちます。パントテン酸とビタミンCは、細胞と細胞をくっつけるヒアルロン酸をつくるのに必要ですが、このヒアルロン酸は肌に水を引き付けておくので、顔のしわを防ぐのにも役立っています。つまり、パントテン酸は傷ついた皮膚の回復に役立つビタミンCの作用を助ける効果があります。お酒やコーヒーなどを多く飲む人は多く必要としているとか。
 ナイアシン(B3、ニコチン酸)、この一日の必要量は14ミリグラムで、B1の10倍も要るとされています。これをリンゴの10倍、御飯の数倍も含んでいるのです。これが不足しますと、体がだるくなり、食欲が減退し、さらに進むと皮膚炎をおこし、皮膚を太陽に当てると火傷のようになったり、ペラグラ(イタリア語で「荒れた肌」)と呼ばれる、皮膚のくろずんだ炎症や脳神経症状が出たりします。ペラグラは、トウモロコシを多く食べる南米の貧民層によく見かける病気で、トリプトファンという体内でナイアシンに変わるアミノ酸がトウモロコシに無いためにおこるのです。また、糖質と脂肪をエネルギーに変わるのを助けています。
 さらに驚くことに、B6(ピリドキシン)の量は、野菜の中では、トップクラスなのです。白米の倍含んでいます。白米は洗うとさらに減ります。ねずみに多量の脂肪と、トリプトファンを与えておくと糖尿症状を呈しますが、B6を十分与えておくと防ぐことができます。人間では、不足すると舌炎、口角炎、胃炎などをおこし、B2欠乏の場合に似た症状がでてきます。B6とパントテン酸が不足しますと、免疫体を作るリンパ組織が退化しやすく、がん、破傷風、チブス菌などに対する抵抗力が弱まる、と言われています。
 ジャガイモのカロテノイド(カロテン類はほとんどなく、ビオラザンチンviolaxanthinが多く、ルテインluteinもあるとする報告もある。体内でビタミンAとして働く)は、肉の黄色の品種、例えばメークイン、キタアカリ、及び長崎県の農業試験場で育成したデジマ、ニシユタカなどに含まれています。(下表も参照してみててください)
 これら各種のビタミンは、NK(ナチュラルキラー)細胞の活性低下を抑制し、免疫力低下にる病気になりやすい体になりにくくしてくれます。また、体のむくみやすい人が1日100グラム1週間食べて治った例もあります(1998年8月26日、日本テレビ『おもいっきりTV』)。
漢方の中にジャガイモを使っているのは、次の効果があるためと言われております。
 健脾益気(けんぴえっき)食欲不振や元気のない時に効く
 和胃消炎(わいしょうえん)胃腸の炎症を押さえる
 利水消腫(りすいしょうしゅ)腎機能が弱っている人のむくみを治したり、脾臓や腎臓の働きを高める
 強身益腎(きょうしんえきじん)免疫力を高め、体を強くする。アレルギー体質を改善する
2000年に科学技術庁から出された「五訂 日本食品標準成分表」に葉 酸が追加されました。葉酸は造血に作用しているので、不足しますと貧血を起こすことがあります。妊娠前から初期に女性がこの葉酸をきっちり摂っていると、赤ちゃんの先天性異常である「二分脊椎」の発症リスクを減らすことができるものです。アメリカでも妊娠の可能性のある年齢層の女性には毎日少なくとも400マイクログラムを摂取するよう言っています。水煮ジャガイモは御飯の数倍の葉酸を含んでいます。

***ジャガイモに含まれている栄養分を教えてください***

そんな質問が多いので、1999年7月に以下を追加

 ジャガイモは野菜の性格とご飯のような澱粉のある食べ物の性格をもっています。澱粉質のご飯とよく比較されますが、ジャガイモは各種ビタミンが多い。野菜としては、パセリーにおけるビタミンCのように、特定の成分をたくさん含んでいませんが、各種ビタミンなどをバランスよく含んでおり、卵と組み合わせるとほとんどのものが摂取できる、とも言われています。そして、乳製品、肉など各種のたべものとの相性がよく『つけ合せの王様』とも言われています。
 ジャガイモの成分は、北海道立食品加工センターの田中彰さんらが1998年産長崎県、北海道芽室、茨城県から各2品種をとって分析したデータの平均でみると、次のようです。
表. ジャガイモ中の成分
調 査 項 目 単 位平均値
エネルギーkcal76.3
水 分 g79.8
蛋白質 g 1.54
脂 質 g 0.11
炭水化物 g17.7
灰 分 g0.87
無機質..
 ナトリウム mg0.8
 カリウム mg409
 カルシウム mg2.5
 マグネシウム mg19.4
 りん mg39.6
 鉄 mg0.35
 亜鉛 μg230
 銅 μg 95
ビタミン ..
α-カロテン mg0.0003
β-カロテン mg0.0017
E効力 mg0.04
 B1 mg0.082
 B2 mg0.026
 B3(ナイアシン) mg1.31
 B6 mg0.179
 葉 酸 mg0.0049
 パントテン酸 mg0.54
 C mg34.9
食物繊維 . .
 水溶性 g0.55
 不溶性 g0.70
 総 量 g12.5



 ビタミンではないものとしては、必須アミノ酸のトリプトファンが豊富なことが注目されています。普通の食べ物では含有が少なく、欠乏しやすいアミノ酸です。これは脳の中で鎮痛や催眠などの効果をもたらすことで知られるセロトニンの原料となり、睡眠ホルモンの分泌を促進します。不眠症のとき不足しがちなマグネシウムやカリウムも豊富なので、ジャガイモは不眠症やうつ病の予防に役立つ食べ物と言えます。
 トリプトファンは体内でタンパク質合成に必要なだけでなく、ビタミンの一種であるニコチン酸(ナイアシン)の生成材料としても重要です。インディオがよく食べるトウモロコシタンパク質にはトリプトファンが含まれていないため、トウモロコシ依存の時期になるとトリプトファンと同時にニコチン酸(ナイアシン)が不足し、ペラグラ*が発生しやすい。このためもあり、インディオは高地でも作りやすいジャガイモに頼っていたものと思われます。
*ペラグラPellagraは、まず顔に発疹が出、ついで消化管全体が侵されて吐き気、嘔吐、便秘、下痢、口内炎が生じる。その後、疲労、不眠、無感情を経て、最悪の場合死に至る。
ビタミン含有の表
ジャガイモは美と健康の泉
ジャガイモのビタミンC
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