澱粉の話(「コナフブキ」澱粉の特徴)

***その長所と短所***

一つの品種にどれにも向く澱粉を求めることはできませんが、平成2桁始めの現在、Yモザイク病に罹らず、早掘りが可能なため作付けの多い「コナフブキ」の比率が多いので、澱粉粒子が大きく、糊化温度の低い「紅丸」・「アスタルテ」タイプ澱粉を育成するなど、作付け比率を高め、できるだけ広い用途に対処したいものです。
 馬鈴しょ澱粉は、穀類澱粉に比べて、粒径や粘度などの幅が広い。したがって、場合によっては、使用目的に合わせて、粒径分布(大小・分布幅)、粘度の高低を考慮して、工場、品種を選らび、時には膨潤力の低下した古い澱粉を使うことが必要です。また、粒径が大きく生地中の水分含有が少なくて一度焼きのえびせんに向かないものであっても、別の用途には適しているということもあるので、産地側としても当該工場産の澱粉の糊化開始温度、最高粘度、最高粘度時の温度、さらには、澱粉ゲルの破壊強度、破壊歪、弾性率(大きいのは、例えば、固いえびせんになる)などを把握しておき、実需者に知らすことも必要です。

 「コナフブキ」は、「サクラフブキ」に比べ最高粘度時糊化温度が約10℃低く、食塩水調製糊液の離水率が低いなど、総じて「サクラフブキ」より澱粉特性が優れています。ただし、「紅丸」に比べますと、かまぼこで問題になる離水率が「サクラフブキ」よりはよいものの高いと言う欠点があります。
  また、工場サイドからみますと、澱粉粒子がやや小さい。比重が高くて薯が硬いため、磨砕歯の消耗が早い。「紅丸」の供給量に合わせた行程では、入り口となる磨砕量を少なくしてやることが必要になります。しかし、「紅丸」に比べ、早期より澱粉価が高く、単位原料から得られる澱粉量が多く、工場の廃液量が少なくでき、磨砕量が同じなら、その操業期間の短縮に役だつなど、優れた特徴をもっているので、ニーズを考慮した育種を期待するところですが、優れた品種が出てくるまで活用されることになりましょう。
  品種別澱粉収量は、その生育日数(いわば、植物澱粉工場の操業期間)にほぼ比例しています。育種家の選抜の際、数字で選ぶと、採種農家泣かせの地上部形態の悪いものや、極晩生を残す傾向にあり、その結果秋地温が低下してから澱粉工場に持ち込まれることになります。極晩生であっても、低温に遭遇しても澱粉の糖化が進み難いのが望まれるわけですが、この2点では「コナフブキ」は「紅丸」より優れていることになります。

「コナフブキ」澱粉の特徴

1 大きさは中粒が多い
 馬鈴しょ澱粉の粒径は、甘しょ澱粉およびコーンスターチなど穀類澱粉に比べてきわめて大きく、また、大小の粒が混在しているのが特徴です。
 「コナフブキ」より得られた澱粉は、平均粒径30〜40μ程度のものがもっとも多い。 一般に「紅丸」から得られたものに比べると、特大粒が少なく、分布幅が狭い傾向にあることが多い。
 また、平均粒径の大小を比べてみると、収穫時期、栽培条件にもよりますが次のとおりです。
 農林1号<コナフブキ<サクラフブキ<アスタルテ≦紅丸
食感を大切にするえびせんは、衛生ボーロ、くずきり(冷菓のひとつ)などと共に馬鈴しょ澱粉だけを使ってつくられているので、原料としての澱粉の特性の違いが重要です。
 糊化と膨化を同時に行う”一度焼き”の草加せんべい、柿の種などでは、その生地の水分は44〜45%で、水分が少しでも多いほうが膨化率がよくなることが知られていますが、「コナフブキ」の使用も可能です。
ニーズへの対応として、風力を利用して粒子を分けたり、澱粉製造工程において分級したりして、用途に応じて提供している例もあります。
 かって、昭和30年代に澱粉工場の合理化が行われたとき、それまでは沈澱することなく流亡していた小粒澱粉まで回収できるようになったため、実需者が利用調整などに戸惑ったことがありました。「コナフブキ」澱粉の使用に際しても、戸惑いを伴ったものの、現在の買い上げは、品質(澱粉特性の良否)を考慮しないで、単位面積当たりの澱粉生産量に応じて、農家収益が上がるため、「紅丸」の作付けを越えてしまいました。

2 糊化時の最高粘度が高く、白度が高い
馬鈴しょ澱粉の特徴の一つに、澱粉を糊化したとき、糊化開始温度が低く、アミログラムの最高粘度が高い、粘度安定性が低い、というのがあります。
 北海道澱粉工業協会(元ホクレン)の山本和夫博士氏によりますと、馬澱のアミログラムの最高粘度を示す温度は66.5〜79.5℃の範囲にあり、目安としては、75℃以下が望ましいとされています。品種の順位は次のとおりです。
 コナフブキ<アスタルテ<<紅丸<サクラフブキ<農林1号
 「サクラフブキ」はこの糊化温度が高いため嫌われていますが、「コナフブキ」は低くて優れている。また「コナフブキ」から得た澱粉の白度は、皮色の紅い「紅丸」や肉食の黄色な「トヨアカリ」などに比べて高く、これを求めるユーザーには好まれています。
 粘度の高い澱粉は、糊化・乾燥して生地をつくり、それを焙焼して膨化させる二度焼きせんべいやあられでは、製品の容積が大きくなり好まれています。
 また、ソーセージやかまぼこなどでは、低温で糊化し、たんぱく質との混在下での「火の通り」のよい澱粉がもとめられています。水産練製品の弾力(あし)は、水分がもっとあれば膨潤可能な糊化澱粉粒が、熱により凝固した魚肉たんぱくの中に埋められ、押さえつけられて生じているもの。これをたとえて言うと、糊化澱粉は、コンクリート(魚肉たんぱく)の中の砂利の役をはたして”あし”を補強し(加熱時に魚肉から放出される水分を吸収する)、カマボコなどから水分の遊離するのを防いでおり水産練製品には馬鈴しょ澱粉が適しています。
 また、澱粉の粘度は品種固有の特性による外、澱粉工場で使っている水の影響を受けています。たとえば、
A. Na・Kが多いと ・・・・・膨潤しやすく、粘度が最高となります。
B. Ca・Mgが多いと ・・・・硬水でつくると、Aより膨潤しにくく、粘度がやや低くなります。
C. Al・Feなど三価の塩類が多い水でつくると・・・もっと膨潤しにくく、コーンスターチのように二段膨潤し、粘度はAの半分ほどになります。

3 灰分は高いが、「サクラフブキ」に比べれば低い
 澱粉中の灰分含有は、概して高澱粉品種で多い傾向にあり、「コナフブキ」も例外ではありません。しかし、「サクラフブキ」に比べ、灰分は低い。「コナフブキ」澱粉中の無機成分は、「紅丸」などに比べ、りん、カルシウム、くど、ナトリウムが多い傾向にあります。
 一般に、同一品種内の分級澱粉では澱粉粒径の小さいものは灰分が多く、小粒薯から採取した澱粉の灰分は少ない。また、りんを多く含むと糊化した時の粘度が高く、低温で最高粘度に達し易い。りんの多いものは、糖化工場の製品回収率の低下をきたし(りんと共に、これについているグルコースも流出する)、イオン交換樹脂の交換回数が多くなるため、嫌われることが多い。
りん含有は、471〜793ppmの範囲にあり、順位は次のとおりです(以下も、順位については、山本の実験結果を参考にした)。
  農林1号<紅丸<アスタルテ<ト∃シロ<コナフブキ≒サクラフブキ で、
 「プレバレント」>「インデラ」>「エニワ」も「コナフブキ」より高い。
近年冷凍食品への利用が高まってきていますが、りん含有が高く、老化しやすいものが嫌われるようになったので、これらニーズにあった品種の育成が望まれているが、国内の交配母本の多くはりん含有の高いものが多く、明るさが見えにくい。

4 早掘りいもでも高澱粉
 秋播小麦の前作として、生育途中で早めに収穫することがあるが、「コナフブキ」はどの時期においても澱粉価が「紅丸」「アスタルテ」などより高く、澱粉収量で優ることが多い。これにPVYに圃場免疫のことも加わり、「コナフブキ」の栽培割合が高い(1998年)。この品種の混合割合によって澱粉の物性に違いができるだけでなく、澱粉は貯蔵の経過とともに変化する。特に、高温・高湿下で貯蔵されると、澱粉に結合していたりん酸の一部が分子から遊離して、無機のりん酸が増え、粘度やpHを低下させます。
  9月上旬などの未熟薯からとった澱粉は、普通の澱粉に比べ、水を多く加えないと糊化が不十分となり、えびせんでは製品にひび割れを生じやすい。

5「コナフブキ」澱粉の欠点
 「コナフブキ」澱粉は良いことずくめではなく、ユーザーから嫌われることもあります。澱粉ゲルの破壊強度(g/cu、粘着性を示し、値が小さいと壊れやすい)は、ばれいょ澱粉は濃度4%時に17.8〜313g/cuの範囲にあり、「コナフブキ」は壊れやすい。
 農林1号<コナフブキ<紅丸<アスタルテ<サクラフブキ
 また、澱粉ゲルの破壊歪(%、大はしなやか、小は脆い)は、21.9〜40.3%の範囲にあるものですが、その順位は、
 サクラフブキ<農林1号<コナフブキ
澱粉の離水率の高いのはカマボコ品質によくないとされていますが、「エニワ」や「コナフブキ」は高いほうに属し、「紅丸」、「アスタルテ」(Astarte)は低い。
 食塩水調製糊液の離水率は、4.9〜34,5%の範囲にあり、順位は次のとおりで、水産練製品をつくるときは大きいので、嫌われます。
 アスタルテ<紅丸<農林1号<コナフブキ<サクラフブキ
なお、4%澱粉糊化時のブレーク・ダウンは、山本によりますと、865〜1375BUの範囲にあり、順位は次のとおりです。
 農林1号<アスタルテ<紅丸<サクラフブキ<コナフブキ<ホッカイコガネ
となって、「紅丸」より明らかに劣る。
澱粉粒 カタクリの花


ジャガイモでん粉の用途の話
国内で生産されるジャガイモの用途はでん粉用が最も多く、3割を越えていま す。
でん粉 > 生食(青果)> チップスなどの加工 > 翌年の種子
の順です。
でん粉の生産は北海道のみで行われているので、北海道ではでん粉に回る比率 が最も高い。国内のフレンチフライなどの冷凍加工用需要は大きいが、輸入も のに頼る比率が高い。
サツマイモ澱粉などとは違って、低温で糊化が始まり、粘度が高く、透明性が高い特徴がかります。
1.糖化用  ...これに約2割回ります
異性化糖、水あめ、ブドウ糖をつくりそれを清涼飲料水などの甘味料などに使 っています。
2.化工でん粉用  ...これに約2割
でん粉をのり状にしたりしてうなぎなどの養殖魚の餌としたり、冷凍食品に耐 冷凍性をつけたりしています。
3.食品用
でん粉の粘性・保水性を利用していろいろなものに使われています。
(片栗粉)比較的低温で糊化でき、最高粘度が高い、透明なことを活用。
...これに約2割
(菓子)ボーロ、えびせんべいなど
(水産・畜産練製品)かまぼこ、ハム・ソーセージに使い食感を改善します。
(麺類)即席麺、春雨、葛きり。
(その他食用)から揚げ粉などのミツクス粉用、粉末スープ・調味料。冷凍食 品。レトルト食品の増粘・保水として活用。
4.繊維、製紙、段ボール用  
糊化させて接着剤やコーティング剤とします。
5.医薬・工業用
錠剤のコーティングやオブラートの原料としたり、紙パックの接着剤。塗料、 研磨剤。
ジャガイモでん粉の話
可憐な赤紫の花をつけるカタクリがありますが、昔この根からでん粉を採っていたので、今でもジャガイモでん粉は片栗粉などとして売られています。
1833(天保4)年から36までの天保の大飢饉は有名ですが、その頃群馬県嬬恋村でジャガイモ塊茎からでん粉を採り、それを『加多久利』と呼んだことに由来しています。そして訳語『澱粉』が初めて使われたのは1837(天保8)のことでした。
 日本農業新聞刊・酒井勉著の『市場への挑戦/農産編』によると北海道のジャガイモでん粉の製造は1882(明治15)年頃山越郡八雲村の徳川開墾地の辻村なるものが製造したとなっているようですが、安政年間(1854〜)亀田や神山(ともに現在の函館市)ででん粉を製造していた記録があります。しかしその量は少なく亀田の例では10.2kgでした。
 詳しくは、
ジャガイモでん粉についてを御覧ください。そこには関連文献も載せています。お暇な方におすすめです。
 国内のジャガイモでん粉は北海道のみで製造され、国産ジャガイモのほぼ3分の1がこれに回ります。つまり北海道のジャガイモの約4割がでん粉原料用となっており、生食用は約3割、ポテトチップス用は約2割となっています。


ジャガイモ博物館内ジャンプ
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